第3話 ニート、せんべいを奪われる 3

「あげないよ」


ニートは、その腕に引っ付いた欠片たち(まるで吸盤のようにくっついている)を

タコのように唇をすぼめ、掃除機のごとく吸い取っていく。ほぼ無音にゃ。


スッ…スッ…。


日頃、母上様から「このタコ」と怒鳴られているのをふと思い出す。

この動きの1割でも普段の生活に生かせれば良いのに、と思わにゃいでもにゃい。


みるみる内に、お白州と表現するには、汚らしいその腕の上に

並べられ立てられていた欠片一同が、

ニートの中へ飛び立ち、旅立ってしまった。


”にゃ…。”


我輩は、それをただ見届けるしか出来なかった。


そんな我輩の、怒り15割、呆れ85割の

真ん丸お目目に満足したのか、

全部を胃の腑に収めると、


「ネコよ、ぼくは、好きでこんな事をしているわけではないのだ」


と、諭してきた。


以下、抜粋である。


「君には、おそらくお昼ご飯が出たはずだ。」


「戸棚の様子から察するに、いつものやつであろう。」


「そして、君はお昼を食べてしまった」


「つまり、今日は、もう食べてはいけないということだ。」


「日に何度もお昼があるほど、自然界は優しくないのだよ」


「決して、君が羨ましいということでは、決して、ないからな」


ニートは、淡々とまくしたてると、

ワイドショーの誘拐事件の話に意識を移した。

我輩のことを路傍の石扱いするなど、言語道断である。


テレビに意識してはいるが、


がさっがさっ


と一発で、せんべい袋に短太の手を突入させ、

お目当のブツを掴む、その一連の動作も、

猫の怒りに油を注ぐことになるとは、思ってはいるまい。


おそらく、読者猫諸君は、

特に我輩の勇敢な活躍を期待していたであろう子猫諸君は、

我輩の姿に落胆したであろう。


大丈夫にゃ。

我輩は、やられたらやりっ放しにするような、

チンケなオスネコではないのである。

言い換えるならば、

ニャン倍返しにでもしてやるつもりなのである。


「これだからは、無能、無能ってネットで叩かれるんだよなぁ」


ボソボソとテレビに文句を浴びせているアザラシにバレないよう

抜き足、差し足、忍び足で


スッ、スッ、スッ


と近づいて…。

そこからは、刹那。


我輩は、

でっぷりと肥えた山の上に登頂し、

そのうっすらと黒い雑草混じりの、山裾のくぼみ部分に狙いを定め、

ショベルカーが土を削るが如く、


引っ掻いたのだ。


”ニャアッ!”

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