第8話 ニート、慰められる 4
聞けば聞くほど、ボロがでる。
しかし、ニートにも、スズメの涙程度のプライドがある故、
こと細く書くのはよしておこう。
(気配りもできるというところが、モテる秘訣なのにゃ)
しかし、これだけは、書かせてほしい。
無言で、思いの丈がびっしりと書き込まれたメモの端きれを
手渡されたら、誰だって気持ちが悪いのだ。
紙の上にアリが群がっているようにしか…これ以上はもうよそう。
しかも、悲しいかな。(よそう、と言ってまた書くはご愛嬌である)
ニートの髪はボサボサであり、服装もパーのカーである。
(我輩の良き愛読者猫諸君の中にも、服を無理くり着せられてしまっているものがいるかもしれない。かくいう我輩もその一匹であり、特にパーカーは嫌いにゃ)
事細かに耳を傾けつつ、
よくそんなみすぼらしい格好で、通報されなかったなアと
我輩はホッと胸をなで下ろしていたわけであるが、
”にゃん?”
その時、
よく透き通る、可愛らしい声が、我輩の耳目を掠めた。
よくよく耳を凝らして、どこにいるのかしらと首を63度ほど回して見ると、
居間南側にある、たっぷりと日光を入れてくれる窓の奥、
軒先の下の、濡縁に
最近懇意である、雌猫がいるではにゃいか。
(あえて名前を伏せてこう書くのは、少しばかり気恥ずかしいからである)
その娘が、尻尾フリフリ我輩を誘っているではにゃいか!?
確かに今日は、日光が気持ちよく、絶好のお散歩日和である。
ニートの辛気臭い話よりも、あの娘と楽しく
子持ちししゃもの食べ方を語り合おうと思う我輩である。
猫は気まぐれなのにゃ。
余談であるが、ししゃもについて、
我輩は、頭から食らう時もあったが、最近はめっきり、お腹をしゃぶるように食べるのがブームである。
そうと決まれば、我輩は、早速窓に向か−。
ぎゅうううううう。
ニートの阿呆め、我輩を強く抱きしめながら、
あろうことか眠ってしまった。
我輩の、首から下は、肉厚なニートに埋もれてしまっている。
”にゃっ!”
何度か、もがこうとしても、
さんま数百匹分もの巨体に、なすすべなし。
しかも、その無精髭の生えた顔を
我輩の可愛らしい頰に近づけ、
大根おろしのような刑を実行した。
”にゃ…にゃっ!?”
抵抗しつつ、首を回せば、南の窓。
気づけば、あの娘は、もういにゃかった。
…ネコは、気まぐれなのにゃ…。
読者猫諸君、我輩への慰めファンレター待っているにゃ…。
にゃんとひどい一日になってしまった、と我輩は甚だ悔いていた。
悔いていたのであるが。
大根おろしをやめたニートが、ぼそりと、
「ありがとうな、話を聞いてくれて」
呟いたのである。
寝ていたのではにゃいのか!?
と叫びたかった我輩であるが、
少しばかり素直になったニートを多めに見て、
我輩は、少し遅めの昼寝をすることに決めたのだ。
ニートは、寝たふりをしないと素直になれない、難儀な生き物である
ということも付記しておこう。
了
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