第10話 ニート、憤慨する

「まったくもって度し難いッ。なぜ、こうもこうも、同じことをオウムのように繰り返しているのだッ。これだから、マスコミはクソなのだ」


我輩はネコであり、こいつはニートである。


我が家のニートは、

いつものように昼過ぎくらいに起きてきて、

戸棚を物色したのち、こたつにごそごそ体を押入れ、

テレビのボタンを押した。


そして、何回かチャンネルを変えたのち、

急に怒り出したのだ。


「なぜ!?」


ピッ。


チャンネルが変わり、オリンピックの中継が流れる。


「こうも!?」


ピッ。


チャンネルが変わり、オリンピックのハイライトが流れる。


「同じことを」


ピッ。


チャンネルが変わり、オリンピックのインタビューが流れる。


「繰り返すのだッ!?」


ピッ。


チャンネルが変わり、ショッピングチャンネルが流れる。


「…貴様だけは許しやろう」


我輩は、瞬間湯沸かし器のように真っ赤になったニートの顔を

一瞥すると、


”ふにゃあ”


と可愛らしく、あくびをこいた。

やはり、春の昼過ぎというものは、無性に眠たくなるものである。

春眠なんとやらにゃ。


しかし、我輩の快適な睡眠を邪魔するニートが一匹。


「君ィ! このままでは日本がどうにかなってしまうと思わないか?」


どうにかなってしまうのは、お前のほうだ。

どうにかしてしまおうか。

と我輩は、右手の猫パンチをしたたかに準備する。


「非常に僕は、今、憤っている」


そう言うと、ニートは立ち上がり、

我輩の胴体を持ち上げた。

餅のように、我輩は上下に引き延ばされる。


「テレビに怒っていると、君は思うだろう」


どうでもいいから、早くおろして欲しいにゃ。


「違うのだッ! 僕は、僕自身に憤っているのである」


奇遇だ。我輩も貴様に憤っている。


「こんなテレビごときに、僕の心の平静が乱されてしまっている、そのことだ!」


我輩も、ニートごときに心の平静を乱されてしまって、甚だ不愉快である。


おそらく、読者ネコ諸君には当たり前のことであるが、

ネコという生き物は、兎角、気ままなものであり、

構って欲しいときに構ってもらえればそれで十分なのである。


つまり、裏返すと、

構って欲しくないときに、構いやがると、


「ぎゃッ!?」


我輩は、ねこパンチをニートの顔面に叩き込んだ。


刹那、ニートの拘束から我が胴体が切り離され、

マグロ一匹分の高さから、地面へと自由落下する。


しかし、問題はない。ネコという生き物は、運動神経が良い哺乳類なのだ。

そして、無論、我輩はネコである。

つまり、我輩は運動神経が良いということになる。


綺麗な三段論法が決まったところで、

我輩は、華麗な着地を決め−。


”にゃがッ!?”


−たのである。


そして、我輩は、颯爽と足を引きずりつつ、

呻き苦しむニートを余所に、

台所の日向へと向かうのであった。


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