第7話 ニート、慰められる 3

結果から書いてしまおう。

会話など、弾んでいなかった。


それは当然のことである。

相手からしたら、業務マニュアルの反芻であって

会話などと言う高尚なものではないのだ。


相手は、そのミャヌアルを全うすることで、

金銭を得ているわけである。

これが資本主義の決まりごとにゃ。


「……」


浮かれポンチだった、おとといから比べると、

我が家のニートは沈みポンチになってしまった。


今日のニートは、鼻息荒く午前中にはコンビニに向かうと、

太陽が南中を終えたくらいに、コンビニから帰宅。

そして早々に、こたつに体を滑り込ませ、丸まり、胎児の構えをとった。


家族が帰宅するまでの数時間を、

こた籠城することに決めたらしい。


当初は、だんまりを決め込むのかしらんと、

我輩は考えていたのであったが、その見当は外れた。


こたつのぬくぬくとした温みが、

ニートの凍った心を徐々に溶かして行ったのだろうか?

次第に、心から口元へと熱が伝わり始める。


硬く閉ざされた口が開門するかするかと


じーっ。


と凝視していた我輩の、その少し緩んだお腹周りに手を伸ばすや否や。


嫌がる我輩を抱き枕がわりにすると、ポツポツと、ことの顛末を話し始めた。


曰く。


「…あの子がいなかったから、雑誌コーナーで待機していた」


「膝が震えるくらい待っていた」


「帰ろうかと思ったところ、ちょうどやってきた」


「来たから、レジに向かい、お釣りをもらう時に」


「自分の連絡先を書いた紙を手渡そうとして」


「断られた」


我輩の推察するところ、

拒否で済むのであったら、ここまで落ち込むはずはないであろう。


我輩の推察するところ、

相手に理解がなかったら、危うく警察沙汰であっただろう。


我輩の推察するところ、

無言で手渡されたら、甚だ気持ち悪いであろう。


と、我輩も思うところがあるにはあるが、

落ちに落ちたニートを、また落とすようなことは

さすがに心が痛むわけである。


したがって、


”にゃ?”


我輩は、可愛らしく小首を傾げて、聞いてやるのである。

もっと面白い話を話せ、と。


おそらく読者猫諸君の中には、スマホ片手に、


「てかラインやってるにゃ?」


とラフに決めれば楽勝じゃにゃいか?と疑問に思っている者もいるであろう。

しかし、それはニートにはできないのにゃ。


ニートは社会と繋がることのできる

スマホやらケータイやらを、


「僕はね、文明の利器に使われるような人間にはなりたくないのだよ」


と言って、突っぱねているため、持っていないのだ。


実際は、支払い能力がないためであるということは、

我輩とニートと、そして読者猫諸君だけの秘密にしておこう。


ここから察するに、

連絡先の書かれた紙には、

郵便番号から住所、そして家の電話番号までびっちり、委細漏らさず

書かれていたはずにゃ。


気持ち悪い。けれど、その必死さ、いとをかし。


さて、一句読んでいたうちに、

そろそろニートが、また喋り出すであろう。

我輩は、ニートを促す意味も込めて、再度、


”にゃ?”


と、問うた。

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