第6話 ニート、慰められる 2

我輩はネコであり、こいつはニートである。


ニートというのは、基本的に臆病である。

普段、人からの(無論、我輩からも)優しさを

受けることがないためであり、


たまに、コンビニなどに行き、

女の子から、

お釣りを受け取る際、

その片方の手を、包むように握られて渡されると、

涙を流すほどであることは書くまでもない。

(と言って、書くところが我輩の魅力である)


なぜ、普段、家でゴロゴロしている我輩が、

そのようなことを知っているかというと、


「あの子、間違いなく、いや間違いなく、僕に気があると思うんだ』


上機嫌に、我輩の頭を撫でながら、

事細かく(半ば話を盛って)説明しているからである。

つばが飛んで来て、甚だ不快だ。


目があったときに電流が走った。など。

まるで深窓の姫君のような肌の白さであった。など。

後ろ髪を引かれる思いで自動扉を後にした。など。

表現が古すぎるのである。


梅干しのごとく眉間にシワを作る我輩も

どこ吹く風と、

ニートは嬉々として、ツバを浴びせてくる。

(我輩しか話し相手がいないのだから、仕方なく聞いてやってるにゃ)


「なあ、君もそう思うであろう」


”ふぁああ”


一つ、大きくあくびをする。


話は変わるが、我が家の居間には、中央に掘りごたつがある。

我輩六人乗っても、まだ余裕がある広々とした大きさのものであり、

お気に入り第二位の場所でもある。


日中、ニートは、掘りごたつに頭だけを出して暮らしている。

器用に座布団を二つ折りにし、高さを良い塩梅にした後、

グダグダと横になりながら、お菓子をムシャムシャしている。


しかし、今日は座布団を一度も折らず、

綺麗にシワを伸ばしたその上に、

姿勢良く正座をしているではないか。


その態度に関心し、我輩も

今日は特にちょっかいをかけることなく、

その傍で尻尾をフリフリ、気持ちよく寝ていたのだ。


我輩の、心地よい午後のひととき、

それが一転してしまった。

聞いてやる体をしてしまったのが…誤算だった。


「何か言っておくれよ。ようやく、僕にも春が来たらしい」


まだまだ話し足りないぞとばかりに、我輩の頭を撫でてくる。

たかだか、お釣り一つ、


「温かいものとお分けしますか…?』

「は、はひ」

ギュッ(誇張された、お釣りを手渡された時の効果音である)


これで勘違いするのであるから、

とかくニートは面白い。


ただ、我輩は、久しぶりに社会に出たニートを思いやり、

聞きたくもない話に耳を傾け続けるのである。


結果、ニートが増長したのは、言うまでもない。


「僕との会話も、非常に弾んでいたと思うのだよ」

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