第9話 ニート、出てこない

我輩はネコであり、こいつはニートである。


ネコという生き物は、自由気ままに、風吹くように、

好き勝手生きているのであるが、


ニートは、どうやら、そうではないらしい。


確かに、家人が皆、出かけてしまう平日には、

その緩んだ体を風切るようにして、一階の居間にドスドスやってき、

日がな一日、テレビに文句を言い続けているわけだが。


休日にもなると、勝手が違う。

父上様、母上様、妹、そして愛くるしい我輩も、

一階の居間で静かな時間を過ごしているが、

過ごしているからこそ、


ニートは、夕ご飯の時にしか、そのだらしない姿を表さにゃい。

しかも、ほんの数分で食事を済ますと、

すぐさま二階へと駆け上ってしまう。


「いただきます」と「ごちそうさま」の間隔が、

回数を重ねるごとに早くなる。

まるで、食い逃げ犯のようで滑稽だ。


普段は、パンダよりもぐうたらしているというのに。


話は変わるが、

パンダは可愛らしいから、ぐうたらしてもいいのである。

というのは、母上様の言である。


よって、必然、

我輩とニートが接触するのは、主に平日の午後ということになり、

休日は、滅多なことがないと、エンカウントしないのである。


「いいかい、今の僕には、市民権がないのだよ」


とは、よく聞くニートの言である。(無論、言い訳にゃ)


「全く持って、度し難い。憲法でも、健康で文化的な最低限度の生活が認められているのになァ」


ニートは、首をフルフル、そう文句を垂れると、

垂れた下腹をポンポンと叩くのである。


「はぁ、君はいいよなあ。家族から可愛がられて。僕もきっと、来世は猫になろう。うん、今、そう決めたよ」


”にゃ…”


デブ猫は、自然界に淘汰されるのがオチにゃ。

しかも、来世に猫になろうというのが、図々しいにゃ。


このようなこともあって、

ニートを改心させねばと、最近、我輩も思うようになりつつある。


目下、この言葉を、ご両親に聞かせてやるというのが、

密かな目標にゃ。


つまり、

世間にとっての平日が、ニートの休日であり、

世間にとっての休日が、ニートの平日?なのである。


ニートにも、一応、平日のようなものがあるのである。






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