泳ぐのに邪魔なロングヘアー【2】
私たちは、いつか来た川にまた来ている。
いつもの冷たい岩に腰かける。
足を川に浸す。
「絶対、後悔しない?」
明日香が、また同じ質問を繰返す。
私は同じように「しない」と答える。
「女の子の特権なのに、馬鹿だねえー、あんた。」
呆れ顔であろう明日香の顔面は、カメラに支配されて表情はよく見えない。
おしりの下に、ひんやりとした岩の感覚。
でこぼこしている。
足元には川の流れがひそやかにある。
夏用の制服の薄さ。
右手にハサミ。
息を吸って吐く。
吐きすぎて軽い眩暈。
足の親指にぐっと力を入れて、これは飛び込み台の上の緊張と似ているなと思う。
耳元で、じゃきっという小気味よい音と同時に、耳慣れたジシャーっというシャッター音。
「あぁーあ。もったいない。」
明日香が、カメラを顔面からはがして言う。
本当に残念そう。
「撮った写真、見せて。」
川から出て、覗き込む。
明日香の持つカメラの小さい液晶に写る私。
斜めに首を傾げて、長い髪を今まさにハサミで切り落としたところが写っている。
もちろん顔は写っていない。
私は見て、満足する。
「ひどい髪型。」
呆れ顔の明日香。
私の頭皮はもう痛くなくて、とても軽い。
「はい、変な髪型の君にプレゼント。」
封筒に入ったそれは、写真で、サボテンの群れと私の一部を写したものだった。
そうだ、私は明日香に話したかったんだ。
妹がサボテンに突っ込んだこと。
サボテンの群れと呼んでいること。
それを立ち止まって見てしまうこと。
マニキュアのこと。
洗濯機のこと。
保健室のこと。
着衣水泳のこと。
プールバックのこと。
女が面倒だと言いながら明日香のことが気に入っていること。
全部、今日、話してしまおう。
幸い、夏の日が暮れるのは、遅いのだから。
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