泳ぐのに邪魔なロングヘアー

泳ぐのに邪魔なロングヘアー【1】



「なにやってんの?」



 明日香の声が緊迫していて、私が想像しているよりも私の見た目は悲惨なんだなと穏やかに思う。



「喧嘩、した。」

「は?泣いてんじゃん!負けたの?」



 勝敗を聞かれるとは思わず笑ってしまった。

 笑ってしまったついでに、私は明日香に洗いざらい話してしまう。





「小学校の時、女の子同士で交換ノートしたり、悪口言ってクスクス笑いあったり。気が付いたら周りがそうで、直感で私もその流れに従わなきゃって思ったんだよね。」



 明日香は、黙って私の語る言葉にうなずいている。



 どうして、女はこうなんだろう。

 表裏があって、思考をくみ取りあって、会話はいつも綱渡り。



「でも、心の中で、いっつも嫌だなー、めんどうだなーって思ってた。あの頃、他の女の子の思考が理解できなくて、みんなのこと宇宙人みたいに思ってた。」



 クスクス笑いの耳障りな空気の振動。

 ひみつのたくさん詰まった交換ノート。

 連れ立って行くトイレ。




「ある時、本当はみんなも、嫌だなー、めんどうだって思っているってことに気が付いたときは、途方に暮れたなあ。なんだこれ。想像以上に面倒くさいじゃん、女って。」



 面倒くさい。女って。



「でもさ、」



 ぽつりと明日香が言葉を落とす。



「面倒くさいって思ってるあんたも、表裏のある面倒くさい女だよ。」



 明日香が笑う。



「逃げられないよー。面倒くさいと思うならなおさら。」



 逃げられない。



「でも、あんたは、ちゃんと裏を現したし、向こうも裏を現した。なんか良いね。」

「良いのかなあ。」


「まあ、あんたはそんなことより私がレズかどうかが気になってるだろうけど。」

「えぇ、それは…」



 明日香が、にやりと笑う。


 実際はどうなの?とは聞かない。

 どうでもいい。

 明日香がどんな子かは、知っている。





 明日香は、ただの変な写真家だ。




「明日香にお願いがあるんだけど。」







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