プール前の保健室【3】


 同じ高校に通っているはずなのに、明日香とは、隠し撮りをされたあの日喋ったきり会うことがなかった。



 私は、移動教室の時とかみんなでトイレに行くときなんかに、もしかしたら明日香にすれ違うかもとか、明日香に話しかけられたらどうしようとか、陽子たちにどうやって明日香のことを説明しようかとかいらぬ心配をした。




 それが今、予想外に保健室のベッドで再会している。


「私は、本当に熱。」


 声を出すと、怠さが再確認される。


「私は、サボり。平熱が高いから、サボりやすいんだよね。演技力がいるんだけど。」


 隣のベッドから声を潜めて明日香が答える。


「つらそうにすんの?」

「そう。顔色も普段から悪いから、小さい声とかで、単語でしゃべんの。」


 小さい声で、楽しそうに言う。



 まともに喋ったことなんてないのに、自然と話ができる。

 なんでだろう、すごく楽ちん。



「今度、現像してくんね。サボテン。じゃ、おやすみ」


 しゃっと白いカーテンが閉まる。



 サボテンの群れの写真か。


 そうだ、もしまた、明日香としゃべる機会があったら、妹がサボテンの群れに突っ込んだ話をしよう。

 あと、私が毎日立ち止まって見てしまうことも。



 あの三人には、絶対に言わなかったけれど大事じゃないようで大事な話を。

 そうしよう。


 明日香になら、言える気がする。

 笑わないで聞いてくれる気がする。





 開いた窓から、水泳の授業の急かすようなホイッスルが聞こえる。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る