まわる洗濯機【3】
「こないだのあれさ、どう思う?」
千紘が、隠しきれなかった笑みを、口の端に置きっぱなしにして言う。
悪い言い方。
「なあに?何のこと。」
私も聞きたかったけど、なんとなく怖くて言えなかった質問を、実花がいとも簡単にしてしまう。
「こないだの、飛び込みの時のあいつ。ありえなかったと思わない?」
もう隠しきれなくなった笑みを全面に押し出して、千紘が目配せする。
目線の先には、クラスメイト。
仲良くもないし悪くもない。本当にただのクラスメイト。
彼女は、水泳の授業のとき、「飛び込み台」の上で怖くなって泣いてしまったのだ。
「ああ、わかる。あれはすごいぶりっこだった。『むりー、こわーい、私、やだー。』ってやつでしょ。」
興味なさそうに、でもきちんと悪口で、実花の言い方は完璧だった。
「去年も飛び込み台の上で泣いて、最後の最後まであいつだけ飛ばなかったでしょ。あれで、体育の単位もらえるって、どうよ。」
「ない でしょ。」
「わかる。ない よね」
共感は女子の潤滑油だ。
私たちは、できるだけ多くの「わかる」を集めなくてはいけない。
からっぽで、反射で言っているだけの「わかる」だと理解していても。
悪口は、必須アイテムだ。
ぽんと放り込んだ悪口に、誰かが「分かる」と言って、受け止める。
悪口は、本気度を増して、憎しみや怒りを生む。
憎しみや怒りは、共感のための、一番の近道だ。
悪口で、共感を確認する。強める。
私の仲間のあなたも、そう思うよね。私と同じでしょ、と。
私たちは、同じでないとだめなのだ。
「女子校でぶりっこするって、なんなの。あの体育教師にでも色目使ってんのかな。で、単位もらおうって魂胆なんだろうね。」
私は、脳を介さず、「わかる」と返事をする。
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