みんな並んで準備体操【2】
「適当なことばかり言わないで。」
自分の発した声が震えていた。
目の周りが痺れた。
血が足りない時のように、チリチリ焼け付く。
耳が、両方一斉にわーんと鳴りだして困惑する。
唇の血流が良くなったように、突き出す感覚に襲われる。
「え、やだ、どうしたの。」
千紘のおろおろする声がする。
少し笑みが含まれている。
「大丈夫だって!レズじゃないよ!そんなに嫌だったのー?」
そんなんじゃない。
心がじゅくじゅくになっている。
「やだ、もう!泣かないでよ。」
陽子と実花も笑っている。
言われて、私は泣いているのだと気が付く。
泣き止みたくて、
ちょっとー、と言って笑いながら差し出された紙ナプキンごと、
テーブルをどんと叩く。
肘を張って、手首の上のあたりで思いっきり叩いたので、思ったより大きい音がする。
千紘が黙る。
陽子も実花も笑うのをやめる。
心のどこかが、あぁーあと言う。
理性だろうか。
「明日香のこと何にも知らないくせに。」
「は?あんたどうしちゃったの?」
心なしか、ファミレス全体がしんとする。
「なに?私たちは、あんたのこと考えて言ってんじゃん。」
テーブルの上でこぶしを握る。
息をつく。
「友達面しないでよ。」
吐く息がそろそろとふるえる。
黙っていた陽子が口を開く。
「あんた、馬鹿なんじゃないの?」
陽子の言葉にすっとお腹の底が冷える。
「立場考えたら?
あんた、私たちが、わざわざ拾ってあげたんだからね?」
わざわざ拾ってあげたんだからね。
脳が一気に冷却され、思考が落ち着いていく。
馬鹿だ。私。
私は、人数合わせだ。分かっていた。
ひとりぼっちの寂しさより、人数合わせの寂しさをとったのは私だ。
でも、寂しいなら、どちらも寂しいなら、同じじゃないかとはじめて気付く。
陸の上の慣れた準備体操は終わった。
みんなそろって、屈伸、腕伸ばし、首を回して、ジャンプ、柔軟、深呼吸。
みんなできる。
みんな同じ。
いざ、水に入る。
そこからは個人の作業だ。
視界も、音も、感覚も全て自分のもの、自分次第。
ある意味解放されて自由、そして孤独。
あぁ、独りだ、と思う。
プールの中と同じだと思えば、少しは楽だろうか。
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