お揃いのプールバッグ【2】
プールバック。
私の小学校の時のプールバックは、赤色。
ざらざらした素材の何の変哲もないカバンだった。
持ち手はロープのように太くて白い紐が通してあり、きゅっと引っ張るとカバンは円錐形になる。
表面には名札を入れるプラスチックのケースが縫い合わせてあり、裏面には斜めに「Swimming」と白い文字でプリントしてある。
このカバンは、クラスのみんなとお揃いだった。
女の子は赤色、男の子は青色。
違いはそれだけ。みんな一緒。
小学校にあがるまえに、お母さんに連れられて、小学校の体育館に、制服やお道具箱、黄色い帽子などを買いに行った。
円錐型のバックも一緒に買った。
他のもののように、SとかМとか関係なく、赤色ということだけ確認すれば買えた。
いちいち「かぶってみなさい」とか「後ろ向いて」とか「羽織ってみて」とか言われずに、簡単に買えた。
でも、母は言ったのだ。
「このカバン、使いにくそう。ショッピングモールで、これと違うのを買ってあげようか?」と。
私は、驚く。
どうして、みんなここで赤か青のバックを買うのに私だけ特別にお店で買うことになるのだろうか。
私は、首を横に振る。
これで良い。「みんなと一緒」がいい。
母が、「本当に良いの?」と念を押す。
私は短く、でもはっきりと「良い」と言う。
同じ制服、同じ黄色い帽子、同じお道具箱、同じ上靴、同じ名札。
違うのは、男女の色の違いくらい。みんな同じ。
同じが「良い」と思うに決まっている。
そう教えているのと同じこと。
私はまんまとその教え通りに従って生きている。
「マネするって自分ってものが無いよね。」
わかったような口ぶりで、陽子が言う。
この子はいつでも誰かに腹を立てているような気がする。
心の中だけで、陽子に毒づく。
あんたもあの子も、おんなじように同じこと、「みんなと一緒」がいいんだ。
安心するんだ。
非難するようにそう呟くのに、それは、まるっきり私のことでもある。
途方に暮れてしまう。
だから、私はいつまでもこの人たちから離れずに、人数合わせなんてやっているんだろう。
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