お揃いのプールバッグ
お揃いのプールバッグ【1】
本当に良いの、と母に念押しされた。
私が、良い、と言った。
「ぶっちゃけ、目障りじゃない?」
お皿に残った、甘い人参をつつきながら陽子が唐突に言う。
場所はいつものファミレス。
紙ナプキンで、ツルを折っていた私はびくんとする。
陽子以外の三人が次の言葉を待つ。
「あのぶりっこ。癇に障らない?」
陽子が言うのは、プールの飛び込みを嫌がったクラスメイトのことである。
近頃、陽子はことあるごとにあの子の悪口を言う。
ストローの入っていた紙をきれいに折りたたんでいた実花が、「そうかも」と答える。「そうかも」なんて曖昧な言葉じゃ陽子は満足しない。
「実花は、嫌じゃないの?あの子、なんでも他人のマネ、するんだって。」
他人のマネの「マネ」のところを少し大きく発音して陽子は悪口を続ける。
「例えば?」
千紘が、アイスティーのなくなったコップを傾けて氷だけ食べながら聞く。
「あいつといつも一緒にいるあの地味な子いるじゃん?あの子が、二人で遊んだ時に着てたワンピース、可愛いからってあいつも同じの買って、わざわざ学校に持ってきたんだって。」
きもくない?と付け加えて、目を吊り上げる。
「うわー、それやだわ。」
服とかネイルとかそういうものに、こだわりがある千紘。
自分がマネされることを想像したようで、陽子にとって満点に近い回答が出来た。
「マネってなんか嫌だよね。私だけ頭使って、マネした奴は頭使ってないから。」
折って小さくなったストローの紙を灰皿に投げ込みながら実花が言う。
彼女は本当に後のフォローがうまい。
陽子が何を言ったら喜ぶか、あるいは黙るか分っている。
私は、実花のように何もかも分かるわけじゃないけれど、分ってもフォローしたくない。
どうして私が言ってあげなくちゃいけないのだろう。
そんな見え透いた問いに、用意された回答。
たかだか、ワンピースひとつ。
ワンピースは、この世でたった一つの特別なものなんかじゃない。
大量生産された、「可愛い!私も買おう!」と思った瞬間に誰でもすぐ買えてしまうようなモノだ。
あの子と、その友達の地味なあの子以外にも、そのワンピースを持つ人はたくさんいるのだ。
そのようなものを、マネした、マネしてない、なんてどうでも良くないか。
しかも、マネされたとかどうとかの感情を揺さぶられたのは、地味なあの子だけ。
陽子じゃない。
「みんなと一緒」じゃないと不安なくせに。
同じような気持ち、考え、行動、服装、髪型。
少しでもズレると強く不安を感じるのは、いつだって陽子だ。
だから、私たちに「あの子のことが嫌い」という認識を共通のものにしようと必死なんでしょう。
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