サボテンの群れ【2】
トゲが刺さった時のことは、なるべく想像しないようにしながら、私は今日もこの「サボテンの群れ」をしばらく観察する。
見て、目に入ってくる感覚。
侵入してくる。
それから、ふっと冷静になって、私の目のサイズの枠を意識する。
きりりと焦点が合って、おでこのあたりで像を結ぶのがわかる。
今日もサボテンたちは、いきいきと群れている。
思わず微笑みそうになったそのとき、ふいに誰かに見られているような気がして、素早く右側を向く。
振り向いたと同時に聞こえる、ジシャーっという何かを巻くような音。
目が合い、互いに息をのんだ小さな間のあと、彼女は言った。
「ああ、ばれちゃった」
「え、」
何が起きたのだろう。
普段より1.5倍速で瞬きを開始。
頭は、何の指令も送ってこない。よって手も足も動かない。
立ちすくんだまま、彼女とただ見つめ合った。
振り向いた先に居たのは、忍者のように片膝をついた不自然な恰好の制服の女の子。
制服は、私の着ているものと同じだ。
また、その不自然な恰好でありながら、大事そうにその子の胸に抱えられているのは、カメラ。
段々と頭が整理されていく。
カメラ。
ということは、さっきの不思議な音は、シャッター音か。
とすると、私は、この不自然な忍者女に、写真を撮られたということなのだろうか。
困ったことになった、と思った。
体中は、危険信号を発していて爆発しそうなぐらいざわざわとしていた。
首筋はさっきから粟立っているし、手先の血がさっき、さーっと引くのは確認した。
言うべき言葉は、さっきから頭の中にいくつも浮遊している。
こんなことしている場合じゃないのに、と思いながらも私は観察してしまう。
忍者の恰好から、ゆっくりと立ち上がりさっきから直立不動で私を見ているこのカメラ小僧を。いや、カメラ少女?
黒い髪は、嘘みたいに艶やか。
でも手はとても節々としていてまるで、少年みたい。
と私は、冷静に観察結果を頭に並べて少し満足してみる。
ここまでやってしまうと、落ち着きを取り戻してくる。
a、誰?
b、何をしたの?
c、うちの高校?
d、写真を撮ったの?
e、何年生?
f、何が目的?
g、それって犯罪じゃない?
どの質問にしようかと、今度は、質問項目を頭に並べてみる。
どれがこの子を刺激しなくて、フツーで、馬鹿馬鹿しくないだろうか。
私が考える間も、彼女は馬鹿みたいに直立不動のままだった。
しかし、よくよく見ると瞳がきょろきょろしている。まるで、慌てた野良猫みたいだ。
うちの近くをうろうろしている野良猫たちは、私と目が合うと
「見つかっちまった」
「早いとこ逃げないと大変な目に合うぞ」
とでも言うように、身を低くし、きょろきょろする。
こちらは、害を加える気なんてさらさらないのに、悪いことをした気分になる。
相手が猫ならば、そのままこちらも直立不動になって、野良猫が跳ぶように逃げ行くのを待つか、構わずこちらのやりたいことをして、逃げる隙を作ってあげるかすればいい。
でも人間はどうしたものか。
カメラに付属した首に掛けるストラップが地面すれすれで揺れている。
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