着衣水泳【3】

 小学校のプールの授業。


 たくさんあるプールの授業カリキュラムの中に一時間だけ「着衣水泳」の時間というのがあった。


 前日の帰りのホームルームで先生が

「明日は、もうあまり着なくなったTシャツとズボンを持ってきましょう」と言う。


 次の日、私たちは持参したTシャツとズボンを水着の上から着てプールで「訓練」をする。


「着衣水泳」は、川でおぼれた時の対処を身に着けるための訓練だ。

 服は、たくさんの水を吸う。

 小学生の私たちの予想をはるかに超えるほど吸う。

 吸って重くなる。

 この重みは、私たちを死に追いやる危険があるのだと先生が言う。

 無理に脱ごうとしてはいけないとも。



 私は、プールに衣服を着たまま入るという行為が嫌いで、水の中でお腹のあたりだけひらひら漂いだすTシャツが嫌いだった。

 さらに、陸にあがると、とんでもない重さになっているTシャツとズボンにうんざりした。



 私以外のプールが大好きなクラスメイトは、いつもと違うプールのカリキュラムに興奮しどうしだ。

 衣服を着たまま入ることに喜び、プールの水に漂うTシャツに喜び、衣服が重いからといって喜び、先生も困っているのがよく分った。


 たぶん、そこにいるほとんどの生徒がこの授業の重要さを分かっていない。

 もちろん私も。



 なにが重要でなにが重要じゃないのだろう。



 もし、何も重要じゃないなら、「重要」という言葉はどこからきてどこにいくのだろう。

 もし何もかも重要ならそれは本当に「重要」なのだろうか。







 私にとってはどうだろう。

 私を取り巻く何もかもは、どうなのだろう。






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