着衣水泳【3】
小学校のプールの授業。
たくさんあるプールの授業カリキュラムの中に一時間だけ「着衣水泳」の時間というのがあった。
前日の帰りのホームルームで先生が
「明日は、もうあまり着なくなったTシャツとズボンを持ってきましょう」と言う。
次の日、私たちは持参したTシャツとズボンを水着の上から着てプールで「訓練」をする。
「着衣水泳」は、川でおぼれた時の対処を身に着けるための訓練だ。
服は、たくさんの水を吸う。
小学生の私たちの予想をはるかに超えるほど吸う。
吸って重くなる。
この重みは、私たちを死に追いやる危険があるのだと先生が言う。
無理に脱ごうとしてはいけないとも。
私は、プールに衣服を着たまま入るという行為が嫌いで、水の中でお腹のあたりだけひらひら漂いだすTシャツが嫌いだった。
さらに、陸にあがると、とんでもない重さになっているTシャツとズボンにうんざりした。
私以外のプールが大好きなクラスメイトは、いつもと違うプールのカリキュラムに興奮しどうしだ。
衣服を着たまま入ることに喜び、プールの水に漂うTシャツに喜び、衣服が重いからといって喜び、先生も困っているのがよく分った。
たぶん、そこにいるほとんどの生徒がこの授業の重要さを分かっていない。
もちろん私も。
なにが重要でなにが重要じゃないのだろう。
もし、何も重要じゃないなら、「重要」という言葉はどこからきてどこにいくのだろう。
もし何もかも重要ならそれは本当に「重要」なのだろうか。
私にとってはどうだろう。
私を取り巻く何もかもは、どうなのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます