プール前の保健室【2】
「先生、適当に寝ますね。」
聞き覚えのある声を四角い天井が吸収できず、聞く。
気になって、起き上がって右側のカーテンを少し開いた。
「あ、」
「あれ、サボり?」
隣のベッドには、体調の悪そうでない明日香がいた。
明日香は、少し変わった写真家だ。
被写体は、「女子校生」限定。
しかし、顔は写さない。
だから、正確には「女子高生の一部」と何か、が彼女の唯一の被写体なのだそうだ。
サボテンの群れと私の一部の写真を見せてくれた時、「ついで」と言って、他の写真も見せながら説明してくれた。
赤い郵便ポストと細い腕。セーラー服の袖口までが写っていて、今まさにはがきを投函するところだろうか。
電車のホームの黄色のブロックとローファーと白靴下。
錆びたフェンスを握る指輪のはまった女の子の手。ブレザーの袖口と舞い上がったスカートも写っている。
どう反応して言いのか分らない。
「引いてるね。良いね。すごく良い。」
明日香は、ただ嬉しそうに苦笑いの私を見て言う。
良いね、と口の中で呟きながら、明日香は、自分の撮った写真を見る。
さっきまでの怯えた猫はどこへやら。
自信とおかしな雰囲気をまとっている。
「変わってるね」
「よく言われる」
にっこり明日香が微笑む。
嫌味のない良い笑顔だ。
無邪気さにどきりとして、唾を飲み込む。
「あのさ…、人に変だって思われたり、人と違うことをするって嫌じゃないの」
笑顔につられて思った言葉を口にする。
私は。
私には、無理だ。
サボテンの群れの前で、向き合ったまま明日香は、ぽつりと答える。
「私は、たぶんわがままでナルシストなのかも」
首からかけたカメラを大事そうに見つめて、明日香は続けて言う。
「みんなと同じように、自分のために自分の一番大切にしてるものを選んでるの。それが他人と違う。それだけだよ」
明日香の言葉に、私はヒリヒリした。
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