2

「先生?ココアちょうだい」

あの日以来行っていなかった保健室に入る。

「輝流!」

「げっ」

こうも偶然があるのだろうか…

再び悠と会う。

「なにが、げっ。だよ?

連絡なんでくれなかったんだ?」

「連絡?……あっ!」

思い出してスカートのポケットを探すと、

くしゃくしゃになったレシートが出てきた。

「ゴミみてぇになってんじゃん」

「だって、用なかったし」

そのまま机の横にあるゴミ箱に捨てた。

「俺が用があるんだよ。

って、おい!捨てんな!」

「はい、ココア」

優しい声で、いつも通りのココア。

「ありがと」

カップを持ったまま、いつもの場所に向かう。

「暖かくなってきたね」

窓を開けベッドに座る。

「貸せ」

私の隣に来てドカッとベッドに座り手を出す悠。

「なにを?」

「携帯」

「なんで?」

「オレの番号入れるんだよ」

「やだよ」

「いいから、貸せ」

「林田、教えてあげてもいいんじゃない?

悠は、悪用するようなやつじゃないし、いざという時は役に立つおじさんだと思うよ」

先生が窓の冊子にもたれながら言った。

「……役に立ってよね、おじさん」

しぶしぶ差し出した携帯に、悠が自分の番号を入れる。



「なぁ、輝流」

目線は液晶に向けたまま、悠が声をかけた。

「…今度はなに?」

「そんなに邪険にするなよ」

ちらっと私の方を見て、再び液晶へと視線を落とす。

「オレの事、マジで思い出せねぇの?」

「覚えてない」

「ちょっとは考えてから言えよ」

ほらよ。と携帯を返された。

「悠で、入れてるからなんかあったら絶対、連絡しろ」

ブーと、携帯のバイブが鳴った。

〝メッセージを受信しました〟

メッセージを開いてみると、

タバコを吸ったやる気のないクマのスタンプが、悠から送られていた。

「なにもなくても、今日あった事とかでもいいから、送っておいで」

ポンポンっと、頭を叩いて、

「俺にココアちょうだい」

先生に言った。

頭に置かれた手は、私の髪を絡めて降りた。



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