9

乱れた服を直し、ベッドに腰掛ける。

後ろから、裸の男性に抱きしめられ、

「なぁ、ゆう。もう一回…」

「もう、時間だよ。出なきゃ」

男性の誘いを断り、立ち上がる。

「ゆう……」

目を合わせた男性が物足りなさそうに私を見てきた。

…めんどくさ。

ふっと息を吐き、ベッドに再び腰掛ける。

ギシッとスプリングが鳴り、コツンとおでこを合わせる。

「家の門限が厳しいから、破ると次から会えなくなっちゃうよ…」

少し悲しそうに、眉をひそめ、

「ケンちゃんのとこ大好きなのに…会えないのは辛い…」

伏せた目を合わせ、キスして?

とせがむ。

軽いキスと、あまいキス。

「ゆう、俺も好きだよ」

嬉しそうに笑う男性が、いそいそと着替えだし、私たちは部屋をあとにした。




ホテルから出て、腕を組み少し歩くと、

「陸くん、またね」

私たちの数件隣のホテルから、化粧の濃い女と出てきたのは、最近よく絡んでくる陸人だった。

「まなみさん、またね」

少しキョロキョロと周りを気にして、女は陸人にキスをした。

二人は別々に帰り、陸人がこちらの方に向かって歩き出した。

見つかるのが気まずくて、男性の影に隠れこっそりと陸人を見ると、

「ちっ!厚化粧ババァが!まじ香水くせぇんだよ!」

嫌そうに唇を乱暴に拭き、着ている服の匂いを嗅いで舌打ちをした。

…陸人?

学校で見る彼とは違い、正反対の彼が私と男性の横を通り過ぎた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る