6
「小野寺先生のバカ!」
保健室には、似つかない言葉で目が覚めた。
甲高い女子の声のあとに扉の閉まる大きな音。
せっかく気持ちよく寝てたのに…
起き上がり、外を見ると太陽がちょうど真上に来ていた。
「…先せ……」
「あーあ、優馬。生徒に手ぇ出しちゃダメだろ」
誰かが保健室に入ってきた。
「ゆう。…出してないよ」
少し困ったような声の先生が、入って来た人を
“ゆう”と呼んだ。
「んで、用ってなんだよ」
「ああ、なんかうちの学校の写真を撮って欲しいんだと。校長が」
「なんでオレ?」
「いや、ゆうの本業でしょ」
いつもと少し違う先生の話し方に、この、ゆうという人は親しい友達なんだと思った。
「今は無職」
ココア飲みたい。と一言。
「はいはい。
なら、暇つぶしにいいんじゃない?」
「甘いのな!」
「本当に甘いの好きだよね」
笑う先生の声はなんだか楽しそうだ。
「でもオレ、人撮ったことないぞ」
「1度も?
ん、ココア」
「サンキュ。
ああ、1度も………あっ!いや!
1回だけあった!」
この人の声、なんだか分からないけど落ち着く。
「まぁ、いけるだろ。校長に話通しとくな」
ちょうど2人の話も終わりチャイムが鳴った。
昼休みも終わった。
「おっ!まぁ、そういう事だから追って連絡するな。
生徒一人寝てるから起こすわ。
ゆっくりしてけよ、どうせ暇なんだろ」
えっ?やば!先生来るの?
寝てた方がいいのかな?
何も悪いことはしてないのに、慌てて布団に潜り寝たフリをする。
カーテンが擦れる音がして、先生の足音が近づく。
ギシッとベッドが軋み、先生が腰掛けた。
「もう昼からの授業始まったよ?」
さっきとは違う優しい声で、私の顔にかかった髪をすくい耳にかける。
「っん」
触れられた耳の感触がピクんと反応して声が出てしまった。
眩しい視界が急に影ができて、先生の体重が私にかかる。
「人の話を立ち聞きして、狸寝入りするなんて子は、お仕置きしなきゃね」
耳元で囁かれた先生の声に、パッと目を開く。
「違う…そういう訳じゃっっ!」
続きの言葉は先生の唇によって塞がれた。
じれったいのに、激しい、気持ちいいキス。
「おい、優馬?どうした?」
カーテンの向こうから、ゆうの声がした。
名残惜しそうに離れて、残念。と、自分の唇を親指でなぞる。
「いや、何でもないよ」
そう言ってカーテンの向こうに先生は消えていった。
残されたのは、
口の中に残るコーヒーの苦さと私。
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