第26話 思ってもいない展開(2)(日比野side)
「今日は疲れたでしょ? ゆっくり休んでね」
「……はい」
お母さんと名乗る女の人が、優佳ちゃんという女の子を連れて部屋を出ていった。
今朝、目が覚めると自分が病院にいることが分かった。
「奇跡的にかすり傷で済んでよかったですね」
医者は微笑みながらオレに説明してくれたが、どうしてここにいるのか、いや自分が誰なのかさえ、さっぱり分からなかった。
それを口にした途端、女の人と医者の表情が変わった。
「これは……記憶喪失かもしれません」
「そんな……」
記憶喪失。その言葉の意味は分かったが、自分がどんな状況に置かれているのか思い出すことは出来なかった。
「まあ、記憶というものは突然戻ったりすることもありますから、あまり思いつめない方がいいですよ」
確かに、無理に思い出そうとすると頭に鈍痛が走る。
まるで何か思い出したくないことがあるかのように。
女の人からは、オレは高校1年生で名前は日比野悠太、両親と妹の4人家族で父親は現在、海外に派遣されていて、お母さんと妹の3人暮らしだと聞かされた。
学校での生活がどうなのかは、クラスメイトじゃないと分からないと言われたけど、友達がいるのかさえも思い出せなかった。
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しばらくすると、病室に女の子が入ってきた。それも4人。
しかも全員がとんでもなく綺麗な、可愛い女の子たちだった。
妹だという優佳ちゃんがお姉ちゃんと呼んでいるけど、まさか全員がオレの姉さんなのだろうか?
そのうち、まるで生きているお人形さんのような綺麗な金髪の女の子が口を開いた。
「悠太……身体の具合はどう?」
なんという綺麗な声なんだろう。自分が記憶喪失だというのに、もうこの子に心惹かれている気がする。その悲し気で、不安そうな表情を見ていると何とかしてあげたくなる。
「はい……大丈夫です」
だから安心してくれ、というつもりで答えたのだが、彼女の表情は晴れなかった。
「日比野、アタシのこと覚えてるか?」
そこへ、今度は長い黒髪を腰まで伸ばした女の子がややキツイ目で睨んできた。
その眼光に怯みながらも、この子もすごい綺麗だなと思った。
一体オレは彼女たちとどういう関係なのだろうか?
でも……。
「ごめん……分からない……」
そう言うしかなかった。
「「「そんな!?……」」」
4人とも悲痛な表情を浮かべるが、オレも思い出せないことが歯がゆくて、とても申し訳ないと思う。
「くっ……」
黒髪さんは悔しそうな顔をすると、いきなりオレに抱き着いてきた。
「ふあっ!?」
オレの胸に黒髪さんのその……大きな膨らみが当たってるんですけど!
そしてすごくいい匂いがするんですけど!
「日比野、思い出せ! アタシは、いやアタシたちはお前の恋人なんだぞ!」
な、なんですとーーーー!?
この黒髪さんだけじゃなく、さっきの金髪さんや後ろでおろおろしている控えめで可愛い癒し系の女の子、それと一番元気そうでノリのよさそうな綺麗な子もオレの恋人だって?
突然の黒髪さんの行動に理性が崩壊寸前になってしまう。
「この前の勉強会で、お前はアタシたちと約束したんだ。ずっと一緒にいるって!」
えええええーーーっ!?
ずっと一緒って、どんなラブコメだよ!?
こんな美少女だらけの勉強会って何なの!? 保健体育の勉強会なの!?
その後、医者にそれ以上のやり取りはやんわりと断られた。
しかし、彼女たちのオレを見る目が何というか……嬉しいんだけど普通じゃない気がする。
あまりの予想のつかない展開に、さっきまでの不安がどこかへ消し飛んでしまい、早く記憶を取り戻したいと思うオレであった。
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次の日になると、検査も徐々に落ち着いてきて、とりあえず体に問題がないことが分かった。
「後は記憶が戻れば問題はなくなります」
医者は焦らないでいいですからね、と優しく言ってくれるのだが、オレには焦らざるを得ない理由があるのだ。
それは……。
「はい、日比野くん。今日は数学ですよ」
癒し系の可愛い緑川さんが毎日のように病室にやって来ては、勉強を教えてくれるのだ。
記憶喪失とはいっても、何故かそれは人の名前や記憶に限定されているようで、これまで習った勉強についてははっきりと覚えていた。
それを緑川さんに言うと、『それでは私が日比野くんが休んでいる間に、授業の内容を教えましょうか?』と申し出てくれたのだ。
ああ、女神様だと思った。でも教わるとなると、こう身体がくっついてしまう訳で、甘い匂いがするし、柔らかい感覚がするしでとても勉強どころではないのだが。
さらに……。
「悠くん。記憶を戻すには過去の話をするといいらしいわよ」
肩まで茶色がかった髪を伸ばした元気系美少女の蒼井さんが、オレと幼馴染ということでいろいろな昔話をしてくれるのであるが。
「ほら、ここに小さなほくろがあるでしょ」
と、胸元にあるほくろを見せてくれるのだが、危うく膨らみ全体が見えそうになったり。
「こうやっておんぶしてくれたのこともあったわよ」
と、ふにゅんと丸い膨らみをオレの背中に押し付けてきたりと、オレの理性を破壊しようとしているのだ。
「あーっ、な、何してんのよ!」
そうなると決まって、金髪さんがやって来て口論が始まる。
オレって、一体この子たちとどういう生活していたのか、思い出したい半面、記憶が戻った後のことを想像すると、このままの方がいいのではとも思えてしまうのだ。
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