第8話 新たな美少女がオレのスクールライフにトドメを刺しに来た?(2)
両手の甲に感じる痛みを耐えているうちに午後の授業が終わった。
今日はひどい目にあった……。
涙目になりながら帰る支度をしていると、後ろから伸びてきた手で両目を塞がれた。
「だ~れだ?」
「へっ!?」
な、何が起きたんだ? と混乱していると「あたしだよ~」と蒼井さんが楽しそうに言ってきた。
いや……分かりますけど。
オレの反応が薄かったのが気になったのか、今度はオレの横に立って顔を覗きこんでくる。
「悠くん、今日ヒマ?」
「え?」
「もし時間あるなら一緒に帰らない?」
「なにっ!?」
「ちょ!?」
「えっ!?」
3人組が驚いた表情でこっちを見る。
と同時に、オレの隣で黒崎さんがすくっと席を立つ。
「残念だが、日比野はアタシと約束がある」
そう言って蒼井さんを睨みつけた。
「いや、そんな約束してな……」
オレが言いかけると、今度は赤澤さんにガシッと足を踏まれた。
いだだだ!
「悠くん、どうしたの?」
「い、いや何でもないです」
心配そうな蒼井さんに引きつった笑顔を返す。今日は何て日だ!
そんなオレたちのやり取りを見ていた黒崎さんが切り出した。
「つかぬことを訊くが、お前と日比野はどういう関係なんだ?」
「えっ!?」
突然の質問に驚いていた蒼井さんだったが、黒崎さんの表情に何かを感じ取ったらしく落ち着きを取り戻して答えた。
「悠くんは、あたしのいとこです」
「「「「いとこ!?」」」」
オレと3人組が見事にハモってしまった。
オレにいとこがいたのか……。
その言葉に3人組は安堵の溜息をついているようだが、何でホッとしているんだ?
そこへ、蒼井さんからいきなり爆弾発言が。
「でも、いとこ同士でも結婚できるんですよね」
普通のことを当たり前に言っているという表情で蒼井さんは言い放った。しかも満面の笑みで。
「「「「なっ!?……」」」」
衝撃を受けるオレと3人組。
「そ、それはどういう意味なのかしら?」
衝撃から立ち直ったらしく赤澤さんが訊いてくる。心なしか顔が青ざめているけど。
「だって、あたしは悠くんの
続けざまに爆弾発言をぶちかます蒼井さん。
しかし、本人の表情からは悪意が微塵も感じられない。
3人の顔からは生気が失われているように見えた。でもきっと、オレも同じような顔をしているだろう。
「い、許嫁……ですか……」
緑川さんがぶつぶつと呟く。その目は先ほどまでの安堵の表情が窺えない。
オレは、ハッとして蒼井さんに問い詰める。
「ちょっと待て。オレはそんなこと聞いてないぞ!」
「そうなんですか? わたしは小さい頃から父に言われてましたけど」
蒼井さんが落ち着いた声で言う。
オレの知らないうちに話が進んでいたということか? そんなことがあってたまるか。
「と、とにかく。オレは了解していない。この話は無効だ!」
オレが力強く言うと、蒼井さんは急に寂しい顔をした。
「あたしのこと……嫌いですか?」
涙を浮かべた目でオレの顔を覗きこむ。こんな顔をされたら……。
「いや、嫌いってわけじゃ……ないけど」
「ほんと?」
「あ、ああ……でもオレだって初耳だし、今急に聞かされても何とも言いようがない」
ここでしっかり断るなりしないといけないんだろうけど、悲しむ顔を見たくないしなあ。
つくづく優柔不断だな、と自分でも思う。
「分かった……嫌われたわけじゃないもんね」
蒼井さんはえへへ、と微笑む。
「じゃあ、悠くん。また明日ね。さよなら」
カバンを手にスタスタと教室を出ていく。
オレは彼女の背中を見送りながら、これから行われるであろう3人組との話し合いに大きなため息をつくのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
蒼井さんが教室から離れた後、オレと3人は屋上でミーティングを行った。
ミーティングと言いながら、実際はオレへの取り調べではあったのだが。
場所は前に黒崎さんから衝撃の告白を受けたときのベンチ。ここで今、あのときと同じように黒崎さんが綺麗な脚を扇情的に組んで下からオレを見上げている。
「で、あの子といとこ関係というのは本当なのか?」
「ああ、どうやら本当らしい。オレもさっき知ったばかりだけど」
ついさっき、母さんに連絡して問いただしてみると、「ああ、そういえば澄香ちゃんって、何年か前にお母さんが再婚して苗字が変わったのよね~」と何ともお気楽な答えが返ってきたのだ。
許嫁の件に関しては、「えっ、そうなの?」と逆にどういうことか根掘り葉掘り訊かれたけど、オレに分かるはずもない。
オレの答えに納得できない3人は一様に不機嫌な顔をしている。
「それで悠太はどうするの?」
赤澤さんが、返答次第によってはただじゃ済まさないわよ、と目が語っている。
「とりあえず、許嫁の話はなしだ。母さんも知らなかったくらいだし、考えられるのは父さんだけど」
しかし地元の名士とかであれば別だけど、一般家庭のオレに許嫁って意味が分からない。
もしかしたら、よく聞くのは父親同士の口約束というものだけど、それを今さら言い出すなんておかしい。
うーんうーんと頭を捻っていると緑川さんが話しかけてきた。
「それはそれとして、日比野さんは蒼井さんのことどう思ってますか?」
「どう、って?」
「あの、女性として、ですけど……」
この上目遣い……ずるい。この表情を見せる緑川さんに嘘はつけない。
「ま、まあ可愛い方じゃないかな」
「「「っ……!!」」」
オレが答えると辺りの雰囲気が急速に冷えていくのを感じた。
あれ、言い方間違えた?
「お前……」
「あんた……」
「日比野くん……」
3人がじりじりとオレの方へにじり寄ってくる。目に危険な光を
だ、誰か、助けてーーーーー!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
今日は思いがけないことがいっぱいあった。
悠くんと同じ学校に通うことになることは前もって聞いていたけど、同じクラスになって嬉しかったこと。
わたしが転校して逢わなくなって以来だから7年ぶりかな?
お父さんの仕事の都合で転校することになって不安だったけど、顔を見てすぐに気付いたよ。 何と言ってもあたしの許嫁だもんね。これからはいっぱい想い出づくりに精を出そうと思う。
でも残念だったことは、その悠くんに好意を持っている女子が3人もいたこと。
1人目は、悠くんの左に座っている長い黒髪に切れ目がちの目が印象的な黒崎さん……とっても綺麗な人だ。ちょっと物言いが男っぽいけど、それが本人にしっくり合っていて『
2人目は、綺麗な金髪をツインテールにした色白の美少女……赤澤さん。顔のパーツひとつひとつが整っていて二次元から飛び出てきたような人だ。
3人目は、清楚で落ち着いた感じの緑川さん。黒崎さんや赤澤さんのような派手さはないけど、思わず守ってあげたくなるような可愛さでとてもモテそうな人。
今思い出しても3人ともすごい美少女だった。しかもみんな悠くんに熱い視線を送っていたし。
でも、あたしだって悠くんを好きな気持ちは誰にも負けないんだから。
そのためには、あたしは自分の出来ることをするしかない。
そう、どんな手を使ってでも……。
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