第9話 こうなればとことん付き合うしかない!(1)

「ほら、あの人よ」

「えっ、どれどれ。ふーん、何というか普通?」

「でも、きっと私たちには分からない魅力があるはずよ」

「そうよね、何せ『B3』が揃いも揃って夢中なんですものね」


 最近、オレの周りでこんな会話があちこちから聞こえてくる。

 黒崎さんから告白されたときに聞いたことがある『B3』というのは、美少女3人組、つまり黒崎さん、赤澤さん、緑川さんのことだと分かった。ちなみにビューティ・スリーの略だそうだ。

 その3人組が毎日のようにオレを巡って、言い合いしたり、腕を取り合ったりしているので、オレもすっかり校内の有名人になってしまった感がある。

 そのせいで、自称・許嫁の蒼井さん以外の女子たちは、オレに対して興味津々ではあるものの、面と向かって話しかけてくることがほとんどない状況になっている。

 まあ、面倒がなくていいことはいいんだけど、少し寂しい気がする。


 今日も今日とて、3人組はオレの周りでわーわーと言い争いに余念がない。

 幸いにも今は放課後、教室にはクラスメイトの姿はほとんどなく、蒼井さんにいたっては巻き込まれるのを恐れて、すでに帰宅していった。


「だから、今日はアタシと一緒に帰ることになってるんだ! そうだろ、日比野」

「何、勝手なこと言ってるのよ! 悠太はわたしと買い物する予定なの!」

「日比野くん、私は一緒ならどこでもいいですよ」


 3人組の美少女は、周りの目を気にすることなく、誰がオレと帰るのかで言い合いになっていた。

 さすがに周りに迷惑だろうと声を掛ける。


「あのー、みなさん……」


「大体、アタシが最初に日比野に告白したんだぞ。アタシには優先権がある!」

「はあ? 早いか遅いかなんて関係ないでしょ! そんなこと言うなら中学のときはわたしが最初よ!」

「いいえ。私といる時間が一番長いんですから、私が一番です!」


「もしもーし、聞こえてますかー」


 オレをすっかり蚊帳の外に置き去りにして、お互いに意地になっているようだ。

 うーん、このままでは埒が明かない。


「よし、分かった!」


 オレの言葉に3人が反応する。


「ここで不毛な言い争いをしても仕方がない。そこで提案がある。今日から順番にお前たちと付き合うことにする」


 これは作戦だ。きっと彼女たちはオレの言葉に嫌悪感を示すだろう、と予想した。何故なら、それはオレが3人を天秤にかけることになり、彼女たちの性格から考えて受け入れられないはずだからだ。もしそれでオレを嫌いになっても仕方がない、と腹をくくった。

 その言葉を聞いた3人は、一瞬お互いの顔を見渡した。


「いいだろう。それで日比野にとってアタシが一番だということが分かるのなら問題ない」

「そうね。悠太に本当のわたしを知ってもらうチャンスだし」

「私も賛成です。日比野くんに私のすべてを知ってほしい」


 あれ? 地雷踏んだ?


「そうと決まれば、順番を決めるぞ」

「それじゃあ、今日から一緒に下校することにして、もちろん休日も一緒よね?」

「そ、それって、デートっていうことですね!」


「いや、あの休日は……」


 言いかけるオレに3人はギロッと睨んでくる。


「男に二言はないよな、日比野」

「そうそう、約束は守らなきゃね」

「今から楽しみです」


 あんたら本当は仲がいいんだろ、そうなんだろ!?

 オレの心の底から湧き出る叫びが口から出ることはなかった。

 なんだかんだ言っても、彼女たちは真剣にオレを想っているのが分かるからな。

 でも、これでやっと落ち着いたと思ったが。


「じゃあ、どうやって順番を決めるかだな?」

「それじゃあ、公平にジャンケンが妥当ね」

「私もそれでいいです」


 3人は頷きながらも、お互いの目には闘志の火花が飛び散っている。これほど緊張感の漂うジャンケンなんてかつて経験したことがない。


「せーのー、「「「ジャンケン、ポン!」」」」

「やったあ!」


 チョキを出した赤澤さんが満面の笑顔で右手を高々と突き上げる。


「くっ……」

「うう……」


 黒崎さんと緑川さんは悔しそうな表情を浮かべながら、喜んでいる赤澤さんを睨みつけていた。

 気を取り直した黒崎さんが緑川さんに視線を向ける。


「じゃあ、次だ。明日の分を決めるぞ!」

「分かったわ」


 そして、

「「ジャンケン、ポン!」」


「よっしゃあ!」


 とても女性とは思えないセリフを吐きながらガッツポーズをする黒崎さん。

 3番目となった緑川さんはすごく悔しそうな顔をしていたが、すぐに何かを思い出したように微笑んだ。


「私は3番目ですけど、よろしいですね?」

「は?」

「え?」


 何言ってるんだ? みたいな表情で緑川さんを見つめる2人。


「3番目ということは、今日は木曜日ですから……私は土曜日ということになりますね」

「「しまった!!」」


 なるほど。確かに順番は3番目だけど、休日なら平日より時間が多くとれるから、結果的に一番いいのだろう。

 勝者のはずが実質的に敗者となってしまった感のある2人は、力なく机に伏してしまった。

 逆転勝ちした緑川さんはにこにことオレに話しかける。


「日比野くん。土曜日はよろしくお願いしますね」

「お、おう」


 これからどうなるんだろう。不安しか感じられないが、言い出したからにはやるしかない。

 そう思うオレであった。

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