第7話 新たな美少女がオレのスクールライフにトドメを刺しに来た?(1)
「えー、今日は皆さんに転校生を紹介します。しかも女子です。よろこべ男子!」
朝のホームルームの時間に相変わらず砕けた口調で切り出した担任の竹下先生。喜べ、って言われてもねえ、実物をみないと何とも言えないですけど。そんなツッコミを心の中でしていると、転校生がゆっくりと教室に入ってきた。
「おおう、これまた美少女!」
「ちょっと、うちのクラスどうなってんの!?」
「俺、このクラスでよかった……もう死んでもいい」
最後の意見には同意しかねるが、確かに騒がれるとおり相当な美少女である。
肩までの伸びた黒髪、大きな目は少し青味がかっていて強い光を発している。スタイルもなかなか、仕草も洗練されていて男子は放っておかないだろう。
でもオレ個人としては、美少女はもう間に合ってます、というのが正直なところだ。
3人組の様子を見ると、緑川さんはにこにこしているものの、黒崎さんは眉根を寄せて何やら機嫌が悪そうだし、赤澤さんはここからでは表情が見えないけど、ツインテールがぴくぴくと
「それじゃ、まずは自己紹介を! カモンベイビー!」
訳が分からないノリで、竹下先生が転校生に向かってずびしっ!と親指を立てる。何もそんなに張り切らなくても……ほら、転校生も若干引いてるし。
「えーと、隣の県の白浜高校から来ました、
ぺこりとお辞儀をする。運動部に所属していたのか、一つ一つの仕草にメリハリがあってなかなか元気のあるように感じた。
「では、蒼井さんは空いてる席に……そうね、日比野くんの後ろがいいわね。日比野くん?」
「えっ? あ、はい」
「じゃあ、日比野くんの後ろに座ってね」
「分かりました」
蒼井さんがオレの後ろの席に向かっていく―――が、何故かオレの横で立ち止まった。
「あれ、悠くん?」
「へ!?」
見ると蒼井さんがオレの顔を覗きこんでいた。気のせいか、つぶらな瞳がキラキラしている。
「あーっ、やっぱり悠くんだ。わー、久しぶり!」
そう言って、何とオレに抱き着いてきたのだ。
「えっ!?」
「あうっ?」
「お、おいっ!」
その途端、オレの前と左右で驚きの声とともに立ち上がる3人がいた。
彼女たちは、驚きと困惑と怒りがごちゃ混ぜになった複雑な表情を浮かべていた。
その光景を見て、オレはまた何か良くない出来事が始まる予感がして、身体中からだくだくと冷や汗が流れてくるのを感じていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
その日の昼休み。オレは心の奥底から伝わってくる、ここにいてはいけない、という危険信号を感じて、そろりそろりと席を外そうとしたところを黒崎さんに取り押さえられていた。
後ろの席ではクラスの女子に囲まれて楽しそうに話している蒼井さんがいる。
黒崎さんはオレに密着するように身体を寄せ、周りに聞こえないように小さな声で問いただしてきた。
「おい、日比野。お前、コイツとどういう関係なんだ?」
「い、いや、まったく記憶にございません」
あまりにも鋭い視線に押されて敬語で答えてしまう。だって、黒崎さんだけじゃなく別の二方向からも黒いオーラを感じるんだもん。
「んなわけねーだろ。あんなところで、だ、抱き着くとか普通じゃねーよ」
えーと……前に昼休みの屋上でオレの肩を掴んでチューしようとしたのは誰でしたっけ? しかももっと大勢の生徒がいる中で、と心のなかでツッコミながらもはっきりと答える。
「本当に知らないんだってば! そんなに知りたいなら直接本人に訊けばいいだろ」
「き、訊けるもんならとっくに訊いている」
黒崎さんはオレに対しては結構強気だけど、本来は人見知りなのか、他人には少し引いた感じの言い方になるのだ。
そんなやりとりをしているところに、前方から地の底から沸いてくるような声が聞こえてきた。
「随分と仲がよろしいようねえ~」
2人で前を向くとゴゴゴゴ……と地響きが聞こえてきそうなほどの怒りのオーラを
こ、怖い……。
気のせいか、ツインテールがファンネルみたいにオレを狙ってうねうねしてるんですけど。
「べ、別に仲良くしてるわけじゃ「おや~、ヤキモチかあ?」……」
オレの言い訳の言葉にかぶせるようにドヤ顔で睨み返す黒崎さんは、いつの間にかオレの左手に腕を絡ませていた。むにむにと胸が当たってるんですけど……。
助けを求めて緑川さんの方に顔を向けると、彼女はいつものように笑顔であったが目が笑っていなかった。
「ふん……お前らだって気になるだろうが」
黒崎さんの言葉に2人は、うっ、と声を上げる。
「それは……気になるわよ」
「そうですね……」
「だろう?」
沈黙する2人の様子を見ながら、上機嫌のままどさくさにオレの腕にしがみつく黒崎さん。
そこへ、会話が盛り上がっている後ろのグループの誰かが発した言葉にオレたちの動きがピタッと止まった。
「ね~、蒼井さんって、今付き合っている人いるの?」
転校生に対するお決まりの質問であるが、この言葉を聞いた瞬間、オレの周りの3人はまるで忍者のように気配を消したのが分かった。でもきっと聴覚だけは普段の3割増しになっているに違いない。
「え、いないよ」
「本当? じゃあ好きな人は?」
「あ、えーと……いる、かな?」
その言葉が聞こえた瞬間、オレは両手にするどい痛みを感じた。
見ると、3人組がオレの手の甲をギギギと
「あだだだだ!」
「お前、いつの間に……」
「あんた、どこでフラグ立てたのよ!」
「……日比野くん、信じていたのに」
わああ! 止めて! 皮膚がちぎれるから!
目の前で行われている惨劇に気付かないまま、後ろのグループはきゃーきゃー話が盛り上がっていた。
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