第20話 閑話 とあるクラスメイトの感想と赤澤さんの日常の一コマ
☆ ☆ 残念な光景を眺めているとあるクラスメイトの感想 ☆ ☆
『また、やってるよ……』
ホームルームがもう少しで始まるというのに、いつもの5人が賑やかな声を上げて言い争いをしている。
この高校に入学してきて、2か月が経過しようとしている。
早くクラスに馴染んで楽しい高校生活を送ろうと考えていた私だけど、今のところ我がクラス、いや学校中の話題を独占しているのは『B3』、いや『B4』というべきか……ここにいる4人組の美少女と、彼女らに言い寄られている一人の男子生徒だ。
何しろ、この美少女4人組というのがアイドル顔負けの可愛さであり、この中で入学当時からこのクラスにいる黒崎さん、赤澤さんと緑川さんの注目度はすごいものだった。
黒い艶やかな髪を背中まで伸ばし、やや吊り目がちの綺麗な目をした黒崎さんは、言葉使いが男性的でまるで孤高の人みたいに人を寄せ付けない雰囲気があるけど、隣に座る男子生徒―――日比野悠太―――彼にだけは自分の気持ちを隠そうともせずに
現に今も、日比野くんと二言三言の言葉を交わしたかと思うと、いきなり
それと赤澤さん―――どこのマンガのヒロインかっていうくらい整った顔立ちのうえに、これまたどこのラノベのヒロインですか、と呆れるほどの綺麗な金髪をツインテールにしている。
彼女も黒崎さんに負けず劣らず周囲の目を引く可愛らしさがあるし、ときおり女性から見てもハッとするような情熱的な表情を見せるのだが、そのうっとりする表情をたった一人の男子生徒にしか向けていないのだ。
この二人とはやや趣が違うものの、暖かい雰囲気で黒崎さんと赤澤さんの行動を見守っているのが緑川さんだ。
二人のような派手な感じはないが、清楚な佇まいは周囲に癒しを感じさせていて、恋人というよりは優しいお姉さんのような存在感がある。
いつも笑顔を絶やさず、誰に対しても分け隔てのない物腰は持ち前の可愛さと相まって女神のようにさえ思えるが、彼女も例に漏れず日比野くんにぞっこんなのだ。
そして最後にこの3人組に加わったのが、半月ほど前に転校してきた蒼井さん。
黒崎さんたちに引けをとらない美貌を誇る彼女も、何故か日比野くんのことが好きらしい。
転校早々に聞いた話だと、付き合っている人はいないが好きな人はいる、とのことだったが、今にして思えばそれが日比野くんだったのだろう。
転校してきた当初は3人組に遠慮していたのか、彼女たちとの絡みはあまりなかったようだけど、最近はこうしてこのメンバーに入ってわいわいと騒がしくしていることが当たり前になった感がある。
何となく彼女たちの紹介みたいになってしまったけど、これだけの美少女たちに囲まれて日比野くんはどう思っているのだろうか。
確かに、甲乙つけ難いほどの可愛らしい4人が相手なのだから、誰か一人に絞ると後が大変と思っているかもしれないけど。
今のところ、日比野くんは4人と仲良くやっているようだ。
最近、私の身の回りで日比野くんに興味を持っている人が増えてきた気がする。
それは、あれだけの美少女たちが何の理由もなく
かといって、彼女たちよりアドバンテージなどあるはずもなく、遠くから様子を窺っているだけのようだ。
私も日比野くんに興味がないわけではないが、勝てない勝負をする必要はないし、外野の一員としてこれからの展開をみていようと思う。
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☆ ☆ 赤澤さんの日常の一コマ ☆ ☆
「ここに日比野ってヤツがいると思うんだが」
わたしがお花摘みの帰りに教室に入ろうとすると不意に声を掛けられた。
「ええ、いますけど」
自分から声を掛けてきたくせに、訝しげなわたしの視線に気付いたのか、少し顔を赤らめて目を逸らす男子生徒。どうやらこのクラスの生徒ではないらしい。『らしい』というのは、わたしは悠太以外にクラスの男子のことをあまり覚えていないからだ。
「ちょっと呼んでくれ」
言葉づかいも態度も上からな態度である。別に丁重に話せとは言わないが、悠太に用事があるとなると話は別だ。
「悠太―――日比野くんに何か用事ですか?」
本人から直接聞いたわけではないが、悠太は男子と絡むのを避けている節がある。前に『男と仲良くなってもろくなことがない』と言っていたのを思い出す。まあ……その原因に心当たりがありまくりなのだけど。
「用事ってほどのことでもないんだが……」
何か奥歯に挟まっているような物言いに、こっちとしてはもどかしく感じてイライラする。
「用事がなければ呼びませんが?」
「……はい?」
「ですから、用事がないのなら日比野くんを呼ばない、と言ったんです」
はっきり口にすると、男子生徒は目を見開いて『何でそんなこと言われるんだ……』みたいな表情になっていた。
やがて我に返るとややキツイ口調で言い返してきた。
「俺は日比野に用があるんだ。あんたには関係ない」
「関係あります」
「は?」
「日比野くん―――悠太はわたしの彼氏ですから」
「へっ!?」
またもや驚きの表情になる男子生徒。それは男同士の話に彼女がしゃしゃりでてきたことへの驚きなのか、日比野くんに彼女がいたことに驚いたのかは定かではないが。
「あんた……名前は?」
「わたしですか? 赤澤といいますが……別に覚えてもらわなくて結構ですよ」
「赤澤……」
しばらく呆然としていた男子生徒だったが、やがて合点がいったという感じでわたしの顔を覗き込む。
「へー、あんたがあの『B4』の赤澤さんか……なるほどな」
「? 何ですか、『B4』って?」
「いや、何でもない」
何故か顔を赤くしている男子生徒。わたしが『B4』って何かを訊こうとすると後ろから声を掛けられた。
「よう。何してんだ赤澤?」
振り返ると黒崎さんと緑川さん、そして蒼井さんが悠太をとり囲むように並んで立っていた。
珍しく笑顔の黒崎さんが妙に機嫌がいいので、あれ? と思っていると、ちゃっかり悠太の右手を握っている。
悠太はというと、困ったような、それでいて諦めたような複雑な顔をしていた。
「ちょっとあんた……何、勝手に悠太の手を握っているのよ!」
わたし達には、いつも公平に優しく接してくれる悠太だから、もしわたしが黒崎さんと同じようなことをしても拒否するようなことはしない、と分かってはいるけれど、実際にそれを目の当たりにすると落ち着いてはいられない。
「何を怒っているのだ?」
怒っている理由が分からない、みたいな顔をしているが、口元がニヤニヤしているのをわたしは見逃さなかった。
「そうですよ。怒るとせっかくの綺麗な顔が台無しですよ」
緑川さんが控えめに言ってくる……けど、その手はしっかりと悠太の左袖を掴んでいた。
「あ、あんたたちねえ……」
わたしも早く悠太に合流しようと思って急いでいたのに、ちょっと目を離すとこれだ……。
文句の一つでも言おうとすると、黒崎さんがニヤリとして言い放った。
「アタシに怒るのは筋違いだ。何せ今日はアタシの順番だからな!」
「うっ……」
そうだった。二日前に恒例の悠太とのお付き合いを決めるジャンケンをしたのを思い出した。
確か、今日は黒崎さん……わたしは明日のはずだ。
「そういうことだからな! あっはっは」
背中越しに手をひらひらさせながら教室に入っていく黒崎さん。そして問答無用で引きずられていく悠太。
何となく悠太は疲れ切った表情を浮かべていた。
「くっ……」
ビリリッ!!
気が付くとわたしは手にしていたハンカチを両手で力を込めて引き裂いていた。
「負けるもんかああああああ―――――っ!!」
叫ぶと同時に、さきほど話しかけてきた男子生徒に向かって言い放つ。
「ところで! 何の用でしたっけ!?」
「い、いや……別の用事を思い出しました……」
引きつった顔でそう言い残してこの場を去っていく男子生徒。
結局、彼は何しに来たのだろうか。
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