ハーレムなのに残念すぎる(?)オレのスクールライフ
魔仁阿苦
第1話 プロローグ
現在、この日本では奇妙な病気が静かに蔓延している。
その病気とは「後発性性転換病」。これはある年齢の男性が女体化してしまうという症状であるが、実際のところ、それほど恐ろしい病気ではない。
何故なら、まず、この病気に
なので、この病気の最大の問題は女性になりたいという特殊な嗜好を持つ男性にとってはまたとない機会である一方、本来の女性との交際を望む男性にとっては不安要素となることである。
実際にこの病気によって女性となった元男性と知らずに結婚し、その後に事実が判明した途端離婚に至ったケースは少なくない。
また、女体化しても精神的に女性になり切れないケースも見られ、結果的に男性でもなく女性でもないという不安定な状況から精神的な負担に耐え切れず、自ら人生の終止符を打つ人も多かったらしい。
このため、罹患した男性にとって「はしか」のような程度の認識では困るとの判断から、学校教育に組み込まれ授業で徹底的に理解させるなどの対策をとっている。
しかし、この病気がオレのスクールライフに暗い影を落とすことになろうとは、今のオレに知る由もなかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
楽しくも波乱に満ちた中学生活が終わりを迎え、今は高校入学を目前に控えた短い春休みに突入していた。
地元の公立高校に進学したオレは、これから訪れるであろう青春を謳歌すべく気持ちを盛り上げようとするのだが、その都度中学時代のオレの周辺に巻き起こったとんでもない日常が高校でも起こり得る可能性に
あ、紹介が遅れました。オレは
成績は中の上、運動神経はまあまあ、対人性能としては中間に位置するいわゆるモブっぽい少年ってところだろうか。ただ、自分で言うのも何だけど結構モテる方だ。
いやいやいや、そこのあなた、ここで『ちっ、つまんねえ話だな』といって読むのを止めないでいただきたい。これには続きがあるのです。
実はオレ、結構モテるんです……男に。
原因は全く分からない。っていうか、分かりたくない……が、中学の頃は周囲の男子からよく声を掛けられていたのは事実である。
最初の頃はオレって友だちが多くて嬉しいなあ、友だち百人出来るかな、くらいに考えていたのだが、彼らの一部がオレの体中を嘗め回すような視線を向けてくるし、何かと言えばボディタッチしてくるのは日常茶飯事と化していたので、さすがにヤバいかもと思うようになった。
こんなことを打ち明けると、『そうか、お前は女子のような可憐な姿をした男の娘なのか』と訳知り顔をされそうだけど、決してそんなことはない。
自分の姿を自分で評価するのは難しいけど、美少女に間違われるほどの美少年では断じてない。
ただ幸いなことに、周囲のすべての男子がオレに惚れる、ということではなくて一部の物好きに
つまり、いかにもソッチ系の趣味をお持ちの方々、ではなく、そんなにスペックが高いのに何というかイタイ人たち、である。
ああ、今思い出しても悪寒がして震えが止まらなくなる。なので、なるべく深く考えずにこれからの明るい未来に希望を持って生きることにした。
しかし、この短い春休みの間に、オレが抱いた小さな夢、というか希望を打ち砕く事象が発生していることに気が付いていなかった。
4月。風に揺られて舞い散る桜の花びらが否応なく季節を感じさせるこの日、オレは高校入学を果たした。
新しい制服を身に付け、新たな出逢いに胸を膨らませながら入学式を迎えたオレは、どこから見ても普通の高校生である。中学時代に身に付いてしまった『男に惚れられる』という、悲惨な異能力がこの高校で発揮されることのないよう注意しつつ、可愛い彼女をゲットして楽しい青春を送ろうと気合を入れていた。
そのためには、男子との接触を極力断つことが必要だ。幸いにも、オレにはスクールライフで重要なポジションを占める、親友という存在はない。本来なら楽しい青春を送るには親友の存在が欠かせないのであるが、オレの場合は親友こそが敵となる可能性があるし、これからは親友だけでなく、男の友だちを極力作らないようにしなければならない。
入学式が無事終了し、教室で担任からこれからの高校生活についてガイダンスを受けている中、オレは注意深く自分のクラスメイトを眺めていた。
この高校は割合として3分の1くらいがオレと同じ中学校出身者で、あとは他校からの入学となっている。つまり、3分の2はオレに関する情報を一切持っていない無垢な状態にあるのだ。
よく見ると、我がクラスはなかなか美少女率が高いようで、ちょっと気が強い系やお淑やか系、愛くるしい系、ツンデレっぽい系など、よりどりみどりの様相を呈している。
なかでもオレの席の前と左右に座っている3人が群を抜いている。
左隣りの子は、黒髪ロングでやや吊り目がちの見るからに気の強そうな子で、左手で頬杖をついてあまり先生の話を熱心に聞いている風でなく、なんとなく孤高の人みたいな印象がある。
右隣りには、それと正反対の印象を受ける、茶色がかった肩まで伸びた髪の大きな目をした女の子だ。
ピシッと背筋を伸ばして先生の話を聞いているところを見ると、見た目どおり真面目な感じで、もし仲良くなれたらいろいろと面倒を見てくれる優しそうな雰囲気がある。
そして前には、ハーフなのかクォーターなのか不明だが、金髪の長い髪をツインテールにした女の子がいる。今は正面を向いているからその表情は伺えないが、これでツンデレであればオレ的にかなり萌えるだろう。
「それでは、これから皆さんに自己紹介をしてもらいます。廊下側に座っている人から順番に、名前と出身校、もし特技とか趣味があれば教えてくださいね。あとセールスポイントなんかあればどんどん言っちゃってね」
担任の竹下陽子先生がにこりと微笑み、「じゃあ、あなたから」と廊下側一番前に座っている男子に声を掛けた。思ったより砕けた印象の陽子先生は、もう少し若かったら絶対男子からモテただろうな。
声を掛けられた男子が席を立ち自己紹介を始めるが、オレはそれを聞き流してこれから聞くことになる女子のプロフィールを頭に叩き込むために脳をフル回転させる準備をしていた。
中学時代の辛かった記憶があるオレには男は不要、男子のプロフィールなど覚える必要性は全くないのだ。
いかにもイケメンといった男子が自己紹介しているときには、中学時代からの友だちと思われる女子たちから黄色い声が上がったり、可愛い女子のときにはいちいち「可愛い」とか「彼氏いるの?」などのやりとりがされている。きっと、この機会を利用してクラスの人気者に君臨しようとする魂胆が丸出しであるが、イケメンといえそうな男子は少なく、『目指せリア充、でもそれは無理』といった感じだ。
そうこうしているうちに、右隣りの子の番がきたのでオレは全神経を耳と目に集中させた。
「私は、
伏し目がちに、若干緊張した面持ちで話す緑川さん。うん可愛いね。
当然のごとく男子たちの視線は熱を帯びたように変わったのが分かる。
そう言えば青田中学校っていったらオレと同じじゃん。こんな可愛い子いたっけ?
脳内の情報ファイルを必死に検索しながら緑川さんを見ていたら、自己紹介を終えて座ろうとした彼女と目が合ってしまった。
すると緑川さんは顔を少し赤らめてニコッと笑ってくれた。
うん。可愛い。あれ、もしかしてオレを……なんて一瞬は思ってしまうがそこは冷静にならないといけない。彼女の今の態度は単なる照れ笑いだ。ここでの対応を誤るとこの後のスクールライフに致命的な汚点を残してしまうので注意しないとな。
しばらくモブ的な自己紹介を聞き流した後、今度は目の前に座る金髪ツインテールさんの出番となった。
彼女は立ち上がって後ろを振り返り話し始める。ちょっとツンケンした笑顔なのが気になるが。
「オレ……いや、わたしは
ぺこりとおじぎをする赤澤さん、その動きに合わせるように金色の髪が揺れて可愛さが引き立つ。やっぱり金髪ツインテールは伊達じゃないな。それにちょっとミステリアスな雰囲気も中々だ。でも最初、『オレ』とか言ってなかったか? うーん、そしてこの子も青田中か……。
周りの視線もさらに熱気がこもった感じで、あちこちで「やっぱ可愛いね」とか「付き合っている人いるのかな」なんて会話が聞こえている。
そして赤澤さんが席に座ろうとしながら、オレの方を見ているのに気付いたが、視線が合うと「ふん!」と小さく呟いて着席した。
オレ、何か気に障ることした……?
続いてはオレの番だ。
オレはゆっくりと立ち上がり口を開く。
「日比野悠太、青田中の出身です。趣味は読書とゲーム、それと野球も好きです。とりあえず(男以外の)みんなと早く友だちになりたいです。今後ともよろしくお願いいたします」
ふっ、決まった。こういうのは簡潔かつ手短に、が重要である。
しかし、周囲の反応はイマイチだった。あれ?……趣味がゲームってヲタクと思われたかな。
まあいい。出だしの失敗を取り返すチャンスはいくらでもある!
そう思い直して席に座ると、緑川さんがこっちを見て微笑みながら、小さな声で「よろしくね」と言ってきた。
オレも笑顔で「うん、こちらこそ」と返事を返すと、前の席から「チッ……」と小さく舌打ちが聞こえた。
前を見ると、赤澤さんが何故かオレと緑川さんを交互に睨んでいる。しかもあの大人しい感じの緑川さんもそれに対抗するように睨み返していた。……何で?
オレが困惑している間もモブたちの自己紹介は続いていく。
そして今度は左に座っている黒髪ロングの子の番になった。
彼女は、やれやれ、みたいな感じで立ち上がると、
「アタシは
と事務的、かつ一方的に話を終えて悠然と席に着く。
いやいや、素っ気なさすぎだろ。
その排他的な態度にちょっと呆れたけど、見た目はやはり可愛い。というよりは綺麗という感じだ。
ちょっと趣味がアレな男子であれば、黒崎さんになら踏まれたい、と思うヤツがいるかもしれないなと少し変態っぽいことを想像しながら黒崎さんの方を見ていたら、「おい、何見てんだよ」と小声で文句を言われた。
「あ……すみません」と返すと、「別に……いいけどよ」と言って視線を逸らした。気のせいか、顔が少し赤いような?
結局、オレの周りにいる美少女3人組である、緑川さん、赤澤さん、そして黒崎さんはオレと同じ中学に通っていたことが分かったが、全員オレとは違うクラスだったせいか全く記憶になかった。
これほどの美少女がいたら、当時の校内で噂にならないはずがないと思うのだが、まあオレの情報網は完璧ではないし、気にしても仕方ないと気持ちを切り替える。
とにかくオレの周りに可愛い、綺麗な子が3人もいることが判明して、これからのスクールライフ満喫生活に突入だ!
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