第14話 別れ

 翌日、緑川さんから土曜日のデートのお礼を言われ、それをネタにまたもや3人組がああだこうだと揉めたのが朝のホームルーム前。

 午前の授業を終えて、今週はどうしようかと再び順番決めの方法をわいわいがやがやと言い争いしていた昼休み。

 いつものように、その様子を残念な思いで苦笑しながら見ていたのだけど、今日はしなければならない厄介ごとで頭が一杯だった。


―――そして、放課後。


 オレは屋上で3人―――黒崎さん、赤澤さん、そして緑川さんと対峙していた。


「日比野、こんなところへ呼び出してどうしたんだ?」


 アタシだけじゃないのか? 何で他の二人もいるんだ、と不満げな顔でブツブツ言う黒崎さん。


「そうか、今から今週の付き合う順番を決めるんでしょう? わたし土曜日がいいなあ」


 少し赤い顔で嬉しそうに話す赤澤さん。


「この前みたいにまた楽しく過ごしましょうね、日比野くん」


 相変わらず笑顔で話しかけてくる緑川さん。


 うう……とても言い出せない……『もう付き合いはやめる』なんて……。

 オレが返事をせずに暗い顔をしていることに気付いた3人は一斉に不安げな表情に変わる。


「おい、日比野、どうした……」

「それはあたしからお話します」

「「「「!?」」」」


 背後から声がして、みんながそっちに顔を向ける。

 そこには真剣な顔の蒼井さんが屋上の入り口に立っていた。


「蒼井さん……」

澄香すみかでいいわよ、悠くん」


 うっすらと笑みを浮かべてオレたちのところへ歩いてくる。

 それを見ていた3人組は、お互いに目配せをして警戒モードになっているようだ。


「あたしと悠くんは……婚約することになりました」

「婚約(だと)(ですって)!?」


 蒼井さんの発言に度肝を抜かれる3人組……とオレ。

 慌てて蒼井さんをみると『あたしに任せて』と目で訴えてきたので、オレはやむなく彼女の話に合わせることにした。

『そうか、そう言えば蒼井さんは転校初日にオレの許嫁……とか言ってたしな』


「ほ、本当なのか、日比野!?」

「まさか、嘘でしょ!?」

「そんな……」


 信じられないといった表情で3人はオレの方を見る。

 その戸惑いの目を避けるようにオレは口を開いた。


「本当だ……ついこの間、決まった」


 オレの言葉に3人は息を飲む。


「日比野、お前、それでいいのか!?」


 黒崎さんがオレの前に立ちはだかる。その表情には怒りとも悲しみともとれる複雑な感情が見られた。


「……それがお前の望んだことなのか?」

「黒崎さん……」


 黒崎さんの後ろには、両手で顔を覆って肩を震わせている緑川さんと、驚きのあまり固まってしまっている赤澤さんがいた。

 そんな姿を見せられても、オレには掛ける言葉が見つからない。

 でも……言わなければならない。


「そうだ。だから、お前たちとは……もう付き合えない」


 誰にも目を合わせることなく、何とか声を絞り出した。


「いや、いや、いやっ!!」


 叫び声を上げながら緑川さんが駆けだした。


「お、おい! 日比野、お前……」


 オレに詰め寄ろうとする黒崎さんを赤澤さんの手が押しとどめる。その顔はもはや生気が感じられないほど白くなっている。


「わたしたちは悠太に……振られたのよ……」

「ま、待て……アタシにはまだ言いたいことが……」


 どこにそんな力があるのだろうか、と思う程、暴れる黒崎さんを抑えつつ、屋上の入り口に向かって引っ張っていく。


「日比野……」


 黒崎さんの呟く声を最後に、やがて3人の姿が見えなくなると、屋上はまるで誰もいないかのような静寂に包まれた。

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