第18話 対決!? これってラブコメですか?

 二日分のオレの成分とやらを取り込んで悦に入っている3人の横で、オレは澄香に電話をかけて、この公園で落ち合うことにした。


 ―――十数分後。


「悠くん」

「ああ、呼び出してごめん」

「ううん。悠くんから声を掛けてくれて嬉しいよ」


 屈託のない笑顔を浮かべる澄香。

 オレはベンチに座ってその様子を眺めている。

 黒崎さんたちはベンチの後ろの林から様子を窺っているはずだ。


「それで、どうしたの?」


 さりげなくベンチに座っているオレの横に腰かける澄香。

 当然、これから起こることなど頭にないようだ。


「やっぱり、オレは彼女たちとの付き合いを止めないよ」

「えっ!?」


 驚いた表情でオレを見る。


「どうして!?」

「それは……彼女たちが嫌いじゃないからだ」

「……それは……女の子として、好きだってこと?」

「……うん。そうだな」


 目に涙を滲ませて悔しそうな顔でオレを睨んでいる。それに負けじとオレも見つめ返す。


「でも……」

「……」

「澄香のことを嫌いな訳じゃない」

「悠くん……」


 さっきまでの絶望を感じさせる表情が少し和らいだ。


「オレにとって、彼女たちも澄香も同じ女の子なんだ。元男だといっても、オレにとっては何の違いもない」


 そうだ。彼女たちの過去に囚われる必要はない。大切なのは、これからなんだから。


「……嫌だ!!」

「澄香……」

「そんなの認めない! 元男のくせに……悠くんの傍にいるなんて……」

「……」

「悠くんだって本当は本物の女の子がいいでしょ! あたしは本物だよ!」

「澄香、話を聞いてくれ」

「だって、あたしの方が……」


「おい、本物とかニセモノとか何言ってるんだ!?」

「!」


 いつの間にかベンチの後ろに詰め寄っていたらしい3人が立っていた。


「さっきから聞いてれば、元男だとか、本物だとか……そんなことは関係ないんだよ」


 黒崎さんが言い放つと澄香がびくっとして後ずさる。


「そうよね。問題は悠太の気持ちなんだから」


 赤澤さんが続いてずいっと一歩前に出て言葉をつなげる。オレを連行したときみたいにすごい連携プレイだ。


「蒼井さんだって、日比野くんが好きなんでしょう?」


 最後に緑川さんが優しい笑顔で問いかける。


「そ、そうよ。だから、あなたたちには渡さない。悠くんは昔からあたしの……」

「だから言ってるだろ。それは日比野が決めることだ」

「うっ……」


 黒崎さんがいうことが正論であるだけに、澄香は言葉を失う。

……でも彼女には切り札がある。


「でも、あれだけ男子に人気のあるあなたたちが、元男だって知られたら困るんじゃないの?」


 追い詰められた形の澄香がついに切り札を切った。

 しかし。


「ふん、そんなことは問題外だ」

「えっ?」


 黒崎さんが即答する。


「わたしたちは元男だって知られても構わないわ」

「そうです。自分が望んで女の子になったんですから」


 赤澤さんと緑川さんも続く。


「……でも、みんながあなたたちのことを知ったら、悠くんはどうするかしら?」

「……それはどういう意味だ?」


「もし、あなたたちが元男だって知られたら一番困るのは悠くんでしょう?」

「「「!」」」


 自分が元男だということを知られても問題ないと考えていた3人であるが、それによってオレを巻き込むことになるということに、たった今気付いたようだ。


「「「それは……」」」


 3人ともさっきまでの強気が影を潜める。


「……彼女たちの秘密を言いたければ言えばいい」

「! ……悠くん?」


 ……出来れば言いたくなかったけど、こうなっては仕方ない。


「オレは彼女たちが……好きだ。元男だろうが、何だろうが今の彼女たちが好きなんだ」

「……」


「最初はオレも戸惑った。元男だった女の子なんて好きになるわけがないと思い込んでいた。でも、人を好きになるのに理由はない。好きになった相手がオレにとって本物なんだ」


「日比野……」

「悠太……」

「日比野くん……」


 3人が目に涙を湛えてオレに視線を向ける。その瞳には、これでもかとばかりの♡マークが浮かんでいたが、今は気付かないことにする。


「そんな……」


 オレの言葉に愕然として立ちすくむ澄香。


「じゃあ、あたしは何のために……あたしのしたことは……悠くんをただ困らせただけだったの?」

「澄香……」

「それは違うわ」


 赤澤さんが口を開く。


「蒼井さんはわたしたちと同じ、悠太を好きな女の子。それだけよ」

「そうだ。その……やり方は気に入らないが、お前の気持ちはよく分かる」

「だから、私たちとも仲良くできるわよ」


 黒崎さんと緑川さんが優しい目をして、澄香を見つめる。そこには怒りも困惑の色が見えない。


「いいの? ……あなたたちにこんなに迷惑を掛けたのに……」

「気にするな。それにオレも今回のことでいろいろと気付かされたこともあったしな」

「悠くん……」


 見つめ合う形になったオレと澄香。

 だったが……。


「ちょっと待てーー!」


 黒崎さんの声でハッとしたオレたちが黒崎さんを見ると、怖い顔でわなわなと震えている。

 そしてその横には同じような表情をした2人が。


「仲直りはしたけど、おまえたちの付き合いを認めたわけではないぞ!」

「そうよ! 言わばわたしたちはライバル同士なんだから!」

「日比野くんは渡さないわ!」


 えーと、結局これはどういうことなの?


「あたしだって、悠くんの彼女になるんだもん! 負けないよ!」


 笑顔を浮かべながら、蒼井さんが宣言する。


 ……要するに、3人組が4人組になったってことですかね?

 ……もう帰りたい。

 オレを放置して、わーわーぎゃーぎゃー騒いでいる4人組を眺めながら、オレは思うのだった。


「どうしてこうなった!?」

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