第4話 可愛いけど残念な美少女たち(3)
黒崎さんと赤澤さんから続けざまに衝撃的な告白を受けたその日の夜、オレは自分の部屋で気を取り直してカバンから封筒を取り出した。
それは赤澤さんと話をする直前に見つけた、教室の机の中に入っていた緑川さんからのラブレター。
生まれて初めてもらったラブレターにオレは猛烈に感動していたが、どこか頭の片隅では黄色信号が点滅していることも自覚していた。
まさか、あの緑川さんも……?
オレは頭をぶんぶんと左右に振りながら必死に否定する。
そんなことはない……はずだ。
でも、緑川って名前には何となく見覚えがあるというか……ええい、悩んでも仕方ない。
思い切って手紙を読み始める。手紙は綺麗な楷書体でびっしりと埋まっていた。
『拝啓 日比野悠太 様
突然のお手紙でさぞや驚かれたことと思います。
日比野様におかれましては、日頃何かとご指導とご鞭撻を賜り感謝申し上げます。』
……何と言うか、とても高校1年生が書く文章じゃないよね。
『早速ですが、本題に入らせていただきます。日比野様は現在、お付き合いされている方がいらっしゃいますでしょうか。もし、いらっしゃらないようでしたら、私とのお付き合いをご検討いただければと思い筆をとった次第です。』
な、なんと、やはりこれは告白ではないですか。
オレはニヤケそうになる顔を両手で叩いて、待て、焦ってはいけない、と念じつつ先を読む。
『本来、私としましてはこのような
それは、黒崎さんと赤澤さんの存在です。彼女たちは私から見ても惹きつけられる美貌をお持ちでありますし、しかも彼女たちの日比野様を見る目は間違いなく恋に落ちているときの目になっています。
私は焦りました。このまま放置していれば、いつ貴方を奪われるか分かったものじゃありません。中学の頃から心に秘めていた貴方への想いが無駄になるのが辛いのです。』
緑川さんの想いが詰まった文章に思わず引き込まれていく。
あんなに清楚でお淑やかな美少女が手紙ではこんなに情熱的になるなんて驚きしかない。
『そこで私は彼女たちの行動を見張ることとしました。こんなことを書くと何やらストーカーのように受け取られるかもしれませんが、これも貴方に恋い焦がれる女の愚かな行為と思ってご容赦ください。
彼女たちがいつ貴方へ想いを伝えるのか、それが気になっていた私は休み時間も席を離れるわけにはいきませんでした。そのせいで同じクラスや他のクラスの男の子たちが押し寄せてきて、貴方にご迷惑をお掛けしたのではないかと思います。でも、どうやら彼女たちも同じ考えだったようですね。』
そうか、それで彼女たちは昼休みになっても席を外さなかったのか。
よく考えてみると、そこまでの気持ちでいたなんて恐れ多いというか申し訳ないというか。
『そこで今日の昼休みです。ここまで席を外したことのなかった黒崎さんがついに動きました。私は焦りましたが、彼女の行動を邪魔する権利はありません。でも貴方が彼女を受け入れるのでは、と不安にかられた私はそっと彼女の後を付けてしまったのです。
その後の状況は貴方もご存じのとおりです。さすがに途中から赤澤さんが登場することまで予想は出来ませんでしたけど。』
うーん、こうして客観的にみると他人からは何それ、ハーレムなのか? と羨ましがられる展開ではある。オレとしてはそんな悠長な立場ではないけど。
『結局、貴方は彼女に対してイエスともノーとも言わず、
黒崎さんと赤澤さん、そして私も同じ病気に罹り、そして自ら望んで女の子になってしまった変わり者に対して嫌な顔を見せなかった、その優しさに私の想いは募っていくばかりです。』
ここまでくると、これはオレの運命なのか、と思ってしまう。
何となく予想していたとはいえ、本人からこうやって伝えられると心が重たくなっていくのを感じていた。
『私が何故貴方を好きになったのか、それは今度ゆっくりお話したいと思います。では明日またお逢いしましょう。
草々 緑川佳乃』
手紙を読み終えて、ベッドの上で横になる。
オレは中学時代に何故か男に惚れられるという辛い過去によってトラウマを抱えることになった。
それを吹っ切るために高校生活では普通に好きな女の子とキャッキャウフフな青春を謳歌しようとしたのだが、なんということか、そのトラウマの元凶たちが本物の女の子になって再び相対することとなろうとは。
でも、彼女たちに罪はあるのだろうか。そもそもオレがトラウマを抱えることとなったのは相手が男であったからではないのか。彼らが病気のせいとはいえ、女の子になった今、オレは彼女たちを避け続けるのは正しいことなのか。
でも、最終的にはオレの気持ちの問題だ。
彼女たちはオレに自分の気持ちを打ち明けてくれた。今度はオレが彼女たちに伝えなければならない……例えそれが、彼女たちには辛い結果だとしても。
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