「ちが~うっ!」

 水貴はちょっと怒った顔で、ずんずんとひかりの前まで歩いてくる。ただし、頬はほのかに赤く染まっているのに、体は隠そうとしなかった。

「いいから、見て」

 ひかりの目の前に、ずいと露わになった小さい胸を突き出した。

「感想は?」

「え、ええっと。……小学生?」

「喧嘩売ってんのか、おのれはっ!」

 すぱ~んとビンタが飛んできた。

 いった~い。顔はやめてよね。顔は。唯一残った本物なのに。

 っていうか、全裸の生徒会長にビンタされるって、なにこの異常なシチュエーションは?

「しょうがないなぁ。じゃあ、今度はもんで」

「へ?」

「いいからっ」

 そういって、ふたたびない胸を顔の前に突き出した。

 やっぱりレズじゃないですか、この人。

 そう思いつつも、ひかりはいわれるがままに両手で水貴の胸にさわる。

 ちいさいなりに盛り上がった双丘を手のひらで覆うと、ぷにぷにした。

 ぷにぷにぷにぷに。

 ぽにょぽにょぽにょぽにょ。

「ちょ、ちょっと」

 水貴の顔が、さらに赤くなり、小鼻がぷっくりと……。

 なんか、気持ちいい。

 もちろん、女の胸をなで回すなど、ひかりにははじめての体験だ。でも、なんか癖になりそう。

 あれっ?

 見ると、水貴の乳首がきゅうっと、隆起して……。

 ひかりは反射的にそれをつまんだ。

「きゃ、きゃん」

 水貴が崩れ落ちる。

 あれ? なんか涙目になって、口元がゆるんでるよ、水貴先輩。

「やめんか~っ!」

 いきなり腕を払いのけられ、ついでに頭をはたかれた。

 だから、頭はやめてよね、頭は。

「で、感想は?」

 水貴は無理に眉をつり上げ、唇を噛んだような表情で聞いた。

「ええっと、……気持ちよかったです」

「人をレズあつかいしといて、おまえのほうこそレズなんじゃないのかぁあああ?」

 なぜか水貴怒り心頭。期待してた答えじゃなかったらしい。

「じゃあ、ええっと、ええっと、水貴先輩って、……感度いい?」

「そういうことを聞いてんじゃなぁああああいっ!」

 これもお気に召さなかったらしい。

 いったいなんて答えれば、機嫌よくなってくれるんだろう?

「じゃあ、これは?」

 そういうと、水貴は両手を頭の後ろで組むと、脇の下をさらした。そうかと思うと、いきなりターンして背中を見せる。もちろん、形のよいヒップも丸見えだ。

 ええっと、これはストリップなんだろうか?

「どう、わかった?」

 なにが?

「だから、なにかわかったことはあるの?」

 ええっと、ええっと、……これはいってもいいんだろうか?

「なによ。なにか気づいたことがあるんならいってみて。怒んないから」

「……水貴先輩は露出狂?」

 いきなり蹴りが飛んできた。それも回し蹴り。

 さいわい頭や顔じゃなくて、当たったのは首だった。っていうか、ものすごい勢いだったぞ? 首の骨は人工のものだから、なんともなかったけど、ひょっとして水貴先輩って空手かなんかの達人?

「ひょっとしてあんたってバカなの?」

 えらいいわれようだ。もし、第三者がここにいれば、どう考えてもバカに見えるのは水貴先輩のほうだよね。とひかりは思う。

「だから、あたしの体を見て、ばれると思う?」

「……なにがですか?」

 本気でわからない。この人はいったいなにをいいたいのか?

 水貴しばしフリーズ。そしてようやくなにかに思い至ったらしい。

「ひょっとして、あなた真理から聞いてないの? あたしもあなた同様サイボーグだったことを」

「な、なんですってぇえええええ!」

 心底驚愕した。その驚き具合を見て、水貴は納得したらしい。

「真理のやつ、なんていいかげんな」

 天をあおいだかと思うと、つぎには床に突っ伏した。

「そうよね。それを知らなければ、あたしってまるっきりバカみたいよね」

 バカみたいというか、バカそのものでした。

 もちろん、ひかりはそんなことを口にしはしない。

 どうやら、彼女と真理の間では、そのことはひかりに知らせていたことになっているらしい。

「あなたが、サイボーグだってのがばれたらどうしようっていうから、恥を忍んでこんなことをしたのに」

 たしかに、いわれるまでまったく気づかなかった。見た目といい、肌触りといい。おまけに感じるのはほんとうらしい。

「水貴先輩って、いい人だったんですね」

 これは本気でいった。だって、親しくもないのに、自分のためにそこまでしてくれる人なんていない。

 それに生徒総会とかで見たときは、もっとつんつんした人かと思ってたけど、こんなに人間味にあふれる人だったなんて。

「ば、バカいわないで」

 水貴は顔を真っ赤にしつつ、脱ぎすてた服のかわりに、スポーツバッグからなにか競泳用の水着みたいなものを取りだすと、足を通す。

「いい? ひかり。あたしたちがサイボーグだっていうのは、お互いの秘密なんだからね。ぜったい誰にもしゃべっちゃダメよ」

「も、もちろんです」

 つまりふたりは秘密を共有する仲間になったってことだ。水貴は学校の先輩ってだけではなく、サイボーグの先輩でもある。今もひかりと呼び捨てにされたことで、いきなり距離が縮まった気がした。

 正直、とても心強い。いろいろ悩みも相談できそうだし。

「そうかんたんに他人にばれないってわかったでしょ?」

 水貴は競泳用水着に袖を通しながらいった。

「は、……はい」

 じっさい、なんとなく気が楽にはなった。

 それにしても水貴に競泳用の水着はみょうに似合っている。スリムな肉体と男の子のようなショートカットはまるで選手のよう。ハイレグカットもちっともいやらしくなく、むしろかっこいい。

「でも、なんで水着に?」

「このあと、ちょっとねえ」

 意味深な笑みを浮かべる。まったく意味不明。

 もっとも、そんなことより、ひかりにはもっと聞きたいことがあった。

「ところで、水貴先輩はなんでまたサイボーグに?」

「ん? まあ、あなたと同じように理由よ。ま、あたしの場合は交通事故で内臓その他がダメになったんだけどね」

「いつのことですか、それ?」

「中三の春休み。だから、高校からはサイボーグの体ってわけ」

「じゃあ、そのときから、体型とかは変わってないんですか?」

「まあね。あたしの場合、中三の段階で背も高かったし……」

 胸が小さいのはそのためか。

「いっとくけど、胸はもっとあったんだから。あいつのプログラムミスよ」

 どうやら、ひかりとは逆に人工有機体を形成する段階で、小さくなったらしい。

「じゃあ、これからちょっとあたしにつき合って」

「どこにですか?」

「病院……っていうか、この研究所の中」

「え、でもあたしパジャマなんですけど」

「ひかり、あんたもこれに着替えて」

 水貴は持ってきたスポーツバッグから、やはり競泳用水着を取り出すと、ひかりのほうに放った。

 なんで水着? 泳ぐの?

「いいから、いいから」

 ひかりは水貴にうながされ、パジャマを脱ぐと、水着姿になった。

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