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 敬子は混乱していた。

 ひかりが誘拐される現場を目撃し、警察に電話したが、警察よりも早くやってきたのは、生徒会長の熱田水貴だった。

「ひかりといっしょだった?」

 敬子の制服を見るなり、バイクにまたがった水貴は怒鳴る。

「そ、それが変な男に車に連れ込まれて……」

「どんな車? どっちにいった?」

「白いワゴン車です。あっちに行きました」

 敬子が指さすと、水貴はバイクでそっちの方向にカッ飛んでいく。

 いったいなにがどうなってんのよ?

 どうして生徒会長の水貴がひかりを探しているのか?

 ふたりにとくにつきあいがあるなんて、今の今まで知らなかった。

 あの事件で入院して以来、ひかりは変だ。まわりの状況も含め、おかしなことになっている。

 悩んでいると、パトカーがやってきた。敬子のすぐ前に横付けする。

「君が通報を入れた三条敬子さんだね」

「はい」

「車はどっちに行った?」

 刑事と思われるくたびれたスーツ姿の中年男が聞く。

「あっちです」

「乗って」

 拉致同然に連れ込まれると、パトカーは発進した。運転している茶髪の若い男がいう。

「その車らしきものが見えたらすぐに教えて」

「はい」

 とはいえ、自信がなかった。似たような車はけっこうあるし、車種がわかるほど車にくわしいわけじゃない。色とだいたいの形が目安という情けない状況だ。

『……で事故発生。破損したのは白のハイエース』

「それだ」

 警察無線を聞いた運転している刑事が叫ぶと、ハンドルを切る。

 事故? 無事なの、ひかりは?

『中にいた少女は、バイクでやってきた少女とともに現場を離れた模様』

 水貴先輩だ。

「なんだあ? どうしてせっかく事故って車が止まったのに、逃げる? そのバイクの女は誰だ? そもそも犯人はどうなった?」

 中年刑事は納得いかなそうな声でいう。

 それは敬子も同じだった。

 いったいなにがどうなってんの?

 もっともそのバイクの主が誰かを、刑事に教えはしなかった。なぜかいったらまずそうな気がしたからだ。

 パトカーはすぐに現場に到着した。

 問題の車。だいたい事故った車が変形する場合、つぶれている。だがこれはちがった。中からぶち破ったような壊れ方だ。

「いったいなにが起こったんだ、こりゃ?」

 中年刑事が見るなり、叫ぶ。

 もちろん敬子にもわからない。ただ、なにか異様なことが起こってるのは間違いない。

 ひかり、あんたいったいどうなっちゃったのよ?

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