12
敬子は混乱していた。
ひかりが誘拐される現場を目撃し、警察に電話したが、警察よりも早くやってきたのは、生徒会長の熱田水貴だった。
「ひかりといっしょだった?」
敬子の制服を見るなり、バイクにまたがった水貴は怒鳴る。
「そ、それが変な男に車に連れ込まれて……」
「どんな車? どっちにいった?」
「白いワゴン車です。あっちに行きました」
敬子が指さすと、水貴はバイクでそっちの方向にカッ飛んでいく。
いったいなにがどうなってんのよ?
どうして生徒会長の水貴がひかりを探しているのか?
ふたりにとくにつきあいがあるなんて、今の今まで知らなかった。
あの事件で入院して以来、ひかりは変だ。まわりの状況も含め、おかしなことになっている。
悩んでいると、パトカーがやってきた。敬子のすぐ前に横付けする。
「君が通報を入れた三条敬子さんだね」
「はい」
「車はどっちに行った?」
刑事と思われるくたびれたスーツ姿の中年男が聞く。
「あっちです」
「乗って」
拉致同然に連れ込まれると、パトカーは発進した。運転している茶髪の若い男がいう。
「その車らしきものが見えたらすぐに教えて」
「はい」
とはいえ、自信がなかった。似たような車はけっこうあるし、車種がわかるほど車にくわしいわけじゃない。色とだいたいの形が目安という情けない状況だ。
『……で事故発生。破損したのは白のハイエース』
「それだ」
警察無線を聞いた運転している刑事が叫ぶと、ハンドルを切る。
事故? 無事なの、ひかりは?
『中にいた少女は、バイクでやってきた少女とともに現場を離れた模様』
水貴先輩だ。
「なんだあ? どうしてせっかく事故って車が止まったのに、逃げる? そのバイクの女は誰だ? そもそも犯人はどうなった?」
中年刑事は納得いかなそうな声でいう。
それは敬子も同じだった。
いったいなにがどうなってんの?
もっともそのバイクの主が誰かを、刑事に教えはしなかった。なぜかいったらまずそうな気がしたからだ。
パトカーはすぐに現場に到着した。
問題の車。だいたい事故った車が変形する場合、つぶれている。だがこれはちがった。中からぶち破ったような壊れ方だ。
「いったいなにが起こったんだ、こりゃ?」
中年刑事が見るなり、叫ぶ。
もちろん敬子にもわからない。ただ、なにか異様なことが起こってるのは間違いない。
ひかり、あんたいったいどうなっちゃったのよ?
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