第29話 昔話(仮)

 昔、古き古き時代。まだ世界が平穏で、時がゆっくりと流れていた時代。

 私はこの周辺地域で最強のダンジョンを作り上げた。

 人間どもは他のダンジョン同様管理しようとしてきたが、私はいきり立つそのすべての侵入者を悉くほふってやった。

そんなときだアイツが来たのは。

王の命令だとか言ってたな。

王国が誇る最強の剣士とやらだ。確かに強かった。体ほどある大きな剣と鎧。赤き闘気をほとばらせていたのを今も覚えている。

三日三晩闘って、結局お互いに腹が減ったので休戦した。

私が気まぐれで食糧を分けてやるとアイツは律儀に殺すのは止めると言ったんだ。

フンッ面白いやつだった。

だから管理ではなく、友好関係ならば結んでやると言った。

今まで通りダンジョンとして人は殺すが、モンスターをダンジョンの外には出さず、そのエルフだけは私の部屋に入る許可を与え、訪れるたびそこから少しばかりの道具や財宝をくれてやることにしたのだ。

そう言えばもう名も忘れてしまったアイツは国では最強の剣士と呼ばれていた癖に自分のことを世界で二番目と宣っていたな。


そして、長い日々が過ぎた。いつの間にか人間とも疎遠になっていた。私のような永遠の存在とはちがい、いくら長命のエルフと言っても寿命はある。アイツもいつの間にか土に還っていたのだろう。

私はいつも通りに少し退屈になったそんな日々を暮らしていたが盟約は守り続けた。あのエルフの女は現れることが無かったが、私もまたダンジョンの外の人間へ危害を加えることもなかった。

しかし、そんな日々も長くは続かず、世界に変異が訪れると人間は古き盟約を忘れ、私を捕らえここに閉じ込めたのだ。



人が生きるため?

知らんなそんなことは。

魔素の循環を司るダンジョンコアをあの変な装置に入れ、私の力を奪うようにこの檻に閉じ込めた。

千年。千年だ。

私はここで生きながら死んでいた。

人間の供物に、犠牲にされたのだ。

私はこの地下深くで長い時を過ごした。

人間への恨みを忘れる程に長い日々だ。

そして、その悠久の時の中で外の世界への渇望だけが増していった。

別に穴蔵は嫌いではない。

ダンジョンマスターになる前も穴蔵を寝床としていたような気がするからな。

だが、私はドラゴンだ。

大空を自由に翔る大きな羽を持っている。

だから外に出たかったのだ。

そして、とうとう外へ、この聖域として設定された範囲の外へ魔物を置けるわずかな綻びが生まれた。

私はそこでゴブリンを産み出したがこれは失敗だった。

思えばその時に気づくべきだった。私は私が産み出したモンスターを操ることは容易いが、私の知らぬ場所で産まれた新たなモンスターはそうはいかないことを。結局ゴブリンは数を増やしたが、ダンジョンコアから魔力を吸い上げる装置をいくつか壊したのみで私の野望は潰えた。


そして、今度はオークで試したがこの通りだ。


お前が目の前に現れた時は久々に見る外の生き物に嬉しくも感じ、私を閉じ込め、外へ出さない人間への憎悪を思い出させてくれた。


だが、その男は何故か毎日のようにそんな私の所へ通う始末。

私と友であった名も忘れてしまったアイツが再び現れたような気がしてこうして話までしてしまった。


さぁ、もう終わりにしてくれ。

お前がなんのため連日私の前に現れるのか分からない。

しかし、私のことを少しでも気にかけてくれるならば、もう一思いに殺してくれ。

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