第28話 ダンジョンマスター(仮)

 ゴチャゴチャとした装置、幾つもの管を根のように地上に延ばした地下の樹木。

 ダンジョン最深部、ボスの間にあったのはその巨大な装置だった。中には輝く玉が液体のような物の中に浮かんでいるだけでボスはいない。

 いや、もしかしたら彼女がそうなのだろうか。

 牢屋のような檻の中でぬいぐるみやらスライムやらオモチャやらに囲まれて寝ている二本の角を持った白い肌と赤い髪の幼女。




「なんだこりゃ? あれは……赤髪の……少女?」




 俺はもう一度周囲を見渡す。そう、このダンジョンの奥底、そこにはゴチャゴチャとした管や配線、そしてそれなりに大きい牢屋が設置されてたただの大部屋だったのだ。そして、牢の中には赤い髪をした少女……いやむしろ十代にも満たない幼女くらいだろうか……が床に寝転んで眠っていた。

 その少女は薄地の簡素なシャツにショートパンツを履いたズボラそうな格好で、今はのんきに鼻ちょうちんでいびきをかきながら、腹を出し、そこをポリポリと掻いている。

 ……なんか随分とおっさん臭いなこいつ。

 と、そこで俺はデジャブに襲われる。


 いつの記憶だったか、助けを求める少女、牢から出してくれと泣き叫ぶ少女、そして……人間へ復讐を誓った少女。彼女の髪は確か炎のような深紅色だった。


 (あぁ、なんだこれは、こいつはどこかで見たような気が……)




 牢の中をよく見れば積み木や多量のぬいぐるみ、そして食事のカスや何かの残骸がそこら中に拡がり、雑多……と言うより正直汚い……

 ただ、牢の中にはスライムも一緒に居り、その水色の軟体魔物が片隅からごみを溶解処分しているようだった。まるでスライムと共存をしているかのようだ。

 しばらく呆然とその光景に目を奪われる俺達。

 この空間は長らく人が足を踏み込まなっかたはずの場所だ。

 上の階、クローン施設から伸びる配管にもかなりの埃が溜まっている。

 ……ならば、この少女はいつからここにいた?


 その時、いびきをかいていたその赤髪の少女が目を覚ます。




「むにゃむにゃ……ん? ……誰だ? こりゃ夢か?」


「いや、夢じゃない。夢じゃなくて現実だ。なぁ、お前ってまさかダンジョンマスターか? このダンジョンのボス……なのか?」


「ん……フ……フフ、フハハハハ!! よぉ~く来たな憎き人間の子よ!! さぁ我と闘……」

「ピギィッ!!」

「あっ、すまん! ヌルスケ、踏むつもりはなかったんだ、ただちょっと久しぶりすぎて気付かず……」




 やはり。

 コイツは『ダンジョンマスター』なのだろう。

 地下深くにて人を待つ人ならざる迷宮の主。

 しかも、こいつは二本の角を生やしている。俺が聞き知っている中から判断するに最強種族とも言われる人化可能な竜(ドラゴン)族だろう……

 ただ、どうやらこの檻のお蔭だろうか、こちらへ攻撃してくる様子がない。案外と危険は無さそうだ。



「オイ、外のオーク達やユリアを操ったのはお前か?」


「……そうか、お前、お前か」


「いや、俺が言った『お前』ってのはだな、俺の目の前にいる頭から角を生やした幼女で……」


「わかっとるわ!! 私のことだろっ!! そうじゃなくてなぁ、私が言ってるのはオークを使った私の野望を悉く邪魔してくれたのはお前だなってことだ!!」


「ん? あぁ、オークを倒したのはだいたい俺だ。攻めてきたからな。倒した」


「クソォォォ!!! ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなぁぁぁ!!! お前達は私を殺すこともなく、抵抗する力を奪ってここに閉じ込めノウノウと地上で生きている!! こんな理不尽がいつまでも続くと思うなよぉぉぉ! 今度は百年後、百年後だ!! 次はまた別の魔物で今度こそお前達を滅ぼしてやるからなっ! 待っていろ待っていろよぉぉぉ!!!」


「ま、まぁまぁ……落ち着け。そう言うことするのはやめよう、誰も幸せになれない。なっ?」




 余りに怖いことを言うので俺も対決の前に話合いでどうにかならないか試みる。

 竜の寿命は人の十倍。更にダンジョンマスターのような特殊な奴は永遠を生き、ダンジョンが攻略されるその時まで悠久の時を経て現れる攻略者を待ち続けていると聞いたことがあった。




「ふ、ふざけるなっ! 五十年前のゴブリンも失敗、今度のオークも失敗、DPつぎ込んだ移し身の水晶までも……アァァァ! クソックソッ!」


「あ、オイ、そんなに踏むとスライムが死んじまうぞ!?」


「あぁぁぁ!!! リバイブ、リバイブ、リバイブゥ!! ゴメンよゴメンよぉ……!」




 ドラゴンってこんなに情緒不安定だったか?

 完全回復魔法リバイブを重ねがけしている明らかに過剰回復だ……あれ? つーか、ドラゴンって魔法使えたっけか……?

 しかも、若干聞き逃せない単語も聞こえた。五十年前のゴブリン?

 ゴブリン戦争の話か?

 まさかそれもコイツが引き起こしたのだろうか?



「ゴブリン戦争もお前が仕組んだのか? この国に戦いを持ち込んだのはお前か?」


「……オイ。何を言ってるんだ? 私と争う道を選んだのはお前達だろう。私が生きてこんな所に閉じ込められている限り、いつか滅ぼされることも覚悟しているだろうに。五十年前のことも今回のことも全て私がやった。そしてこらからもそれは続く」




 ……腰に手を延ばす。そこには折れた無銘の代わりに名も無きなまくらがあった。ルイズ王国から借り受けている物だ。

 つまり、全ての原因はコイツってことだろう。よく分からんがそれだけは理解できた。コイツを切れば全て解決するんじゃねえのか?

 ただ、イマイチ難しい話をされても分からん。結局、俺の行動は威嚇に止まる。



「ウィリアム、もっと詳しく話を聞く必要がある。切らないでくれ……」


「そうですわね。この施設自体、人工の物です。一体何のための物であれが何なのか……ユリアの手が借りたい所ですわ」




 相談の後、俺達はユリアの目覚めを待つこととなった。

 それまで何をされるか分からないため、俺が檻の前にて監視を続ける。





オークに人の国を襲わせる必要があった。ダンジョンマスターは雌を与えないこととし、懐柔よりも厳格な締め付けを実施した


人間への復讐も檻から出せば止めると言うが、ゴブリンやオークのこともあり少しキレるウィリアム。

しかし、攻撃しようと魔法が効かない檻の中に手をいれれば、腕を吹き飛ばされる。

拉致があかない。しかし、何故コイツが殺されることなく封印されているのか。

そこが謎で結局殺すことはあきらめて、ユリアの調査結果を待つのと平行して、しつこく通い話を聞くことにする。

毎日のように地下に降りるウィリアム。

止めるティアーユだったが、結局騎士だからと付いていく。


DPで飯を出せたり、ぬいぐるみ抱いて寝たり、スライムとままごとのような可愛い遊びをしているのを見て、少し情が沸いたり、親密になったりしたそんな頃

唐突に昔話を始める




彼女は赤竜レッドドラゴンが人化した姿。

その彼女が閉じ込められている檻には強い封印魔法がかけられており、更にはその周囲にも聖域、いわゆ魔物の入れない安全地帯が全方位、土中も含めて設置されている。

それは滅亡に向かう人々が彼女を騙して作り上げたダンジョンのエネルギーを吸い上げる機構であった。

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