第20話 探索

「と言うわけで、少しオークの話がしたい……って美味(ウマ)ぁぁぁっ!? オババ様達こんな美味いもの作れたのかよっ!?」



 会食の場、今日も王女、防衛隊長、研究者、それから俺の騎士が集まっているそこで、俺はオークの話を始めることにした。

 と、思ったのだがあまりにもオババ様の作ったこのポトフ的なものが美味いので先に食うことにする。

 バクバクバク……ゲップ。

 因みに席についている俺以外の四人にも小さなお椀に俺と同じ料理を出されていたはずなのだが、既に食べ終わったのか全て空っぽだった。




「まずは、言おうか迷ったことなんだけどな……とりあえずここにいる人だけには話そうと思う。これはオババ様達も隠していた話で……なんだ、その、オーク達が生贄と称してこの国の人を連れ去ろうとしていたのはオーク達が子を産ませようとしていたためだと思うんだ……」




 ビクリとティアーユが大きく動く。

 ソフィアもオババ様達が隠していた話と言うことで驚いているようだ。

 流石なのは女王様とリーネの二人。

 動じることなくどっしりと構えて静かに次の言葉を待っていた。


 よくよく考えてみると食事の場でする話でもないのだが、ブロックの摂取をただの栄養補給と感じている彼女達が気分を悪くすることもなさそうだったので続けることにする。




「恐らくだが、もし連れ去られれば苗床……つまりオーク達の子供を産まされるために弄ばれることとなる……これは死と変わらない、いや、生きて苦痛を味わうだけ死よりも辛いだろうな、きっと。何よりこちらの人数が減るだけでなく、敵であるオークの数が増える」


「……は? えっと、彼女達がオークを産むのですか? いやいや、獣の雄と人が子をなせないのは流石に知っています、科学的にも周知の事実です!」


「あー、なんだその……はぁ。ティアーユちょっとお願い……」




 原理とか科学的なことは良く分からんが、特定のモンスターについては人と交われる。現におばば様達からはゴブリン戦争って実際に起きた事件の話も聞いている。

 そして、後を任せたティアーユについては先日オババ様達から性教育を受けていた。

 と言うか俺が受けさせた。ゴブリンが原因となって起こした事件の恐ろしさとかをよく知ってもらいたかったからだ。勿論その日からしつこく一緒に寝ようと言ってくるようになって毎晩部屋の施錠に迫られているのだが……

 まぁそういう訳で、俺が話すとセクハラに成りかねないこともズバズバと言っていく、オーク達が行ってくるであろうこともズバズバと言っていく。あまりのエグさにこっちの気分が若干悪くなるほどだ。ティアーユの話はオブラートで包まれることがない、直接的で生々しい物だった。

 しかし、どうしたことだろう。何故か当のティアーユは随分あっけらかんと女王様達に説明しているし、聞いている方の女王様達も普段と変わらぬ顔をして聞いていた。

 あの怖がって肩を震わせていたティアーユはもうここには居なかったのだ。ふと、じっちゃんが言っていた「女性はのぉ、とんでもなく強し!」という言葉を俺は思い出していた。





 ……


「ふぅむ、そう言うことなのですか。それにしても興味深いですわ、宜しければこのあとにでもウィリアム様には子作りについて手取り足取り……」


「王女様、ご遠慮申し上げます。そんなことよりもオークだ。とりあえず生贄なんて制度はこの先も何があってもやってはいけない。あいつらの利益にしかならず、人の滅亡を早めるだけだしな」


「そうですわね……すみません。国民を犠牲にする制度なんて許されるはず無かったのですわ。ただ、私は国を治める者として、制度を執行した者として一切弁解するつもりはありません。やってしまったことはこれからの私の行動で贖罪しようと思っていますわ」


「んーまぁ、シャーリーはそんなに重く受け止めてなかったけどな。結局、生贄にはならなかったわけだし。あっ、それともう一つオークキングについて教えてくれないか? 俺は氷に封印される前からオークキングとやらについて見たことがないんだ……」


「アイツは……デカいオークだ」




 リーネシアが俺の言葉に返すよう語り出したので聞くことにする。

 と、思ったら次の言葉が出てこない。以上らしい。

 デカいってことしか分からんのだが……



「いや、どんな攻撃してくるとか、どんな性格かとか分からないか……? ジェネラルオークでさえ魔法を使ってくるんだ。キングとやらも使ってくるんだろ?」


「むっ? そうだな、あれは魔法と言うべきなのか……兎に角、アイツは危険だ」


「……」


「……い、いやいや、本当だ! 一体どんな魔法なのか、はたまた魔導具か、それとも|失われた遺産(ロストヘリテージ)か、私にはさっぱりネタが分からんが、アイツの攻撃一つで武器も人も何もかもが大破させられる。やはりあれは魔法の類なのだろうか? 近付かなければ大丈夫だが、こん棒で殴られでもしたら……そうだ、門、城門が壊れているのは知っているだろう!? あれはオークキングの持つこん棒のたった一振りで壊されたのだ!」


「は……?」




 こん棒で城門が壊された?

 そんな事が有り得るか……?

 そりゃあ確かに“こん棒”がマジックアイテムって可能性もあるな……

 あの門は確か木製だったはずだ、本気出せば俺だって一閃で真っ二つ位には出来るかもしれん。

 しかし、壊された門は切られたというより本当にバキバキに破壊されたように見える。

 つまり怪力でぶん殴ったと言われた方が納得する。だが一撃であんなに広く亀裂が入るものなのか……?

 ふーむ。とりあえずこん棒に注意ってことだな。




「まぁ、だからこそそのこん棒が届かない距離から弓または槍で攻撃するのが良いと思う。ど、どうだ? 良ければ私が手取り足取り槍での戦い方を教えてやっても……」


「いや、大丈夫だ。じっちゃんに言われて槍は少し触ったが、やっぱり無銘の方がしっくりくる。取りあえずこん棒の攻撃に最大限注意ってことだな」


「ウッ……そうか………」




 残念そうに肩を落とすリーネシア。

 だけどなぁ、実際ここにいる防衛隊員については槍の技術も達人級って訳ではないし筋力も上であろう俺に教えられることってないと思うんだよな。

 だからこそやんわりと断っておいた。




「それにしても弱点とかもなさそうだな。攻撃方法としては普通の人型モンスター同様、首を落とす、心臓である魔石の破壊、あとは急所くらいか?」


「急所、ですか?」


「ああ、例えば人体だと眉間や鳩尾(みぞおち)、股間が……」




 ふと失言に気付く。

 正面の王女様は首を傾(かし)げているくらいだが、流石に頭の良い研究者ユリアは「ほう……」と息を吐きつつ興味深そうに次の言葉を待っているし、横目で隣に座るティアーユを見てみれば既に俺の股間をジットリ見つめているではないか。




「……股間が弱点なのか?」


「っ!」


「ほほう! その反応はそうなのか! では、次の訓練では積極的に狙ってみよう!」





 そんな中、防衛隊長のリーネシアが言葉に出して聞いてきた。

 俺の息を飲む様子にそうだと判断したのか今はしたり顔だ。

 コイツ分かっているのだろうか、一歩間違えたら俺が男から女になっちゃうんだよ!?

 そんな所へまさかのティアーユからの助けが入る。




「隊長、ウィリアムの股間は確かに人体としてはとても柔らかい。例え訓練だろうと弱点となりうるのでしょうが狙っちゃダメです。見てくださいこの怯えた顔を……」


「えっ!? そんな怯えた顔してたかな俺……いや、まぁ確かに訓練でも普通は狙っちゃダメなとこなんだけど、ここの訓練は目潰しなんかもありみたいだし……」


「いいえ、ティアーユ、黒の守り手様の股間にはとても固い物がありましたよ。お身体を拭いている時に確認しましたが、骨も入っているようでしたわ?」




 あ、これまずい。まずいやつだ。

 俺が恥ずかしくなって悶死する精神的にキツいやつだ。

 そんな嫌な予感を感じた俺は話が噛み合わなくなった会議をどうにか無理矢理終了させると共に、外へ調味料を探しに行くと言ってティアーユを連れて慌ただしくその場を立ち去ったのだった。






 ……



「そう言えばウィリアム様の発見当初は王女様が直々にお世話していたと聞きました! いいなぁ、私もウィリアム様のお身体を拭きたかったです……でも大丈夫、次からは私に言って貰えれば何時でも何処でも、くまなく余す所なく隅々までお拭きしますねっ! えっ? 恥ずかしい? いえいえ、恥ずことはありません。ウィリアム様のお身体はきっと神々しく輝いていて……」


「……シャーリー、もう分かったから。それに体拭くなら自分で拭けるから……」




 今日も俺達は料理に使える調味料等々を探しに荒廃した町の方へ出歩いていた。

 シャーリーは俺が回復魔法をかけてやり足を再生させたことで折角狩りの仕事に戻れたと言うのに、その合間を縫って俺達のこの適当な行動に付き合ってくれている。

 なんとも有り難いことだ。


 しかも、シャーリーは狩りの才能のお陰か、次々と調味料などを探し出してくれたのだ。腐った物もあったが蒸留酒なんて大当たりもあったのだ。

 おばば様達も「あの捨てられて目につく物はあらかた取り尽くされた町からよく見つけてきおったな!」と少し驚いていた。

 しかし、これに気を悪くしている者が一名……




「見てくださいウィリアム様! これは食べれるものでしょうか!?」


「うおぉぉぉ!! アイスクリームじゃねえか!! つか、この冷凍魔道具自体スゲー発見じゃないのか!? なぁティアーユ!」


「べっ、別にそんなのいくらでも発見されてるからな! 一千年以上昔の人間が閉じ込められてる氷の塊に比べたら全然だしぃ!!」


「い、いやまぁそうかもしれないけど……アイスクリームだぜ、アイスクリーム!? まさかこんな終末チックな世界でアイス食べれるなんて思ってなかったわー!!」


「わ、私だって今から凄いの見つけるところだから! アイクルリーム位目じゃないやつだぞ! よし、ちょっと待っててくれ……あっ、あそこ! あそこが怪しい!!」




 そう、ティアーユだ。因みに『アイクルリーム』じゃなくて『アイスクリーム』な、ティアーユ。

 彼女は次々と成果を出すシャーリーが面白くないようなのだ。

 まぁ、元々負けず嫌いな所があったからな。負けっぱなしは嫌なのだろう。

 そんなティアーユはアイスを見つけ出したシャーリーに慌てたのか、突然「あそこだー!!」と指を指しながらある建物に向かって走っていった。

 どう見ても家宅ではなく倉庫にしか見えないのだが、俺達もやれやれと溜め息しながら追従した。


 倉庫の中は強盗が押し入ったような様相を見せている。

 ただ基本的に捨てられた町の家々はあらかたこうして何かないかと引っくり返されているのだ。今さら驚きはない。

 そして現状はその既に有用な物が持ち去られているであろうこの古びた倉庫から何か使えそうな物を見つけるのが俺達の仕事だ。さっそく皆で床に散らばるゴミクズを一つ一つ確かめる作業を始めた。




「うーん。金属製ペンチなんかの工具が多いな……何かしらのマジックアイテムがあったみたいだけど、もう持ち去られてるんじゃないか?」


「いや、絶対にここには何かある! あるはずなんだ!」


「ふぅ、じゃあ、あとちょっとだけ探して何も無かったらアイス食いたいから帰るぞー。冷凍魔道具もいつまでもフラフラと持ち歩いて壊れたり燃料の魔石切れたら面倒だからなー」




 その時だった。

 壁を調べていたシャーリーが蓋に覆われていたボタンを発見したのだ。

 壁をスライドすれば現れるボタンだったのだが、その蓋自体が建物が古すぎてホコリ等で隙間が見えづらくなっていた。しかし、シャーリーは見事にこれを見つけ出し、そして中のボタンを興味心から何の考えもなしに押したのだった。

 途端に部屋全体がゴゴゴと音を立てながら振動したと思ったら、床の中心がスライドし足元に穴がゆっくりと開いていくではないか。




「うぉっ!? なんだ、落とし穴の罠か!? ここもしかしてダンジョンじゃねぇだろうな!?」


「キャアアア!!」


「ほ、ほらな!? ややややっぱりここには何かあると思ったのだ!! わ、私の勘は当たるんだからな!?」


「バカ、黙ってろ舌噛むぞ!」


「キャッ!」

「お、おぉ……ウィリアムに抱えられてしまった……はふぅ」




 二人を両脇に抱えて部屋の角へ飛び退く。

 いざとなれば壁を壊して脱出……いや、ダンジョンの場合壁の強度が見た目にそぐわない場合もある。土魔法か氷魔法で足場、いや、いっそ浮遊魔法で落とし穴の底にゆっくり降りたほうが……

 等と考えていたのだがどうやら杞憂だったようだ。

 穴の拡大は壁の端まで広がることなく止まり、さらには落とし穴の底が上昇してきている。

 どうやらこれは“何か”を床の下に保管しておくための機構だったようだ。


 さて、少し慌てたが、現在穴の底に保管されていたのであろう物(ブツ)が、布を掛けられた摩訶不思議な物(ブツ)が俺達の目の前には現れていた。

 長らく地下にあったのだろうカビ臭い。大きさは人間程……いやそれより少し大きいか。

 横長でシルエットはそうだな……角のような突起もある牛か何か大型動物の剥製に近い気がする

 ただ、あの布の下に何があるのかを見ない限りはよく分からないな……俺達は僅かな緊張からゴクリと喉を鳴らしていた。


 それは離れて見ていても全く動き出すことがなかった。

 うーん。よし、ここは確認するしかないだろう……

 俺は二人を置いて一人でゆっくり近付くと、掛けられていた布を取っ払った。

 中から出てきたのは……!!



 黒光りする二本の角がついた……


 えっと、機械で出来てるからマジックアイテムの……


 うー、巨大な二つの車輪が着いた……


 えー……なんなんだこれは?




「……おい、これ、何?」


「わ、私も見たことがない物だぞ……」


「わ、私もです。でも、見るからに機械的で魔導具だと思い……あっ、ここ、ここに魔石を投入するみたいですよ! ほら、投入用魔石もこんなに!」




 ふむ、確かに角がある方とは逆、尻のあたりに投入口があり、床にはご丁寧に魔石が幾つか転がっている。

 よし、投入……

 えっと、それで起動するボタンは……

 んん? どこだ?

 魔石投入した後はどうすりゃいいんだ?


 こうなったら既に恐怖心などなくなり、単純に好奇心が出てくる。

 車輪があるから何かの運搬具なのだろうか……?

 暫く三人で適当に弄っていると角のような所にあったボタンを押してしまう。すると途端にブルルル……!! と、その黒い物体は起動し始めた。




「お! 動いたぞ! スゲエ! それで次はどうするんだ……?」

 

「あ、ここが回るみたいで……キャァアアア!!!」




 シャーリーがその黒い物体の角を回転させると突然の急発進。

 轟音を上げつつ二つの車輪が凄い勢いで回転する。角を掴んでいたシャーリーは振り回され、引きずられ、角から手が離れ振り落とされることでやっと黒い物体も停止した。

 あまりの急な出来事にティアーユと俺は暫く停止してしまったが、シャーリーが床の上でピクピク痙攣しているのを見て直ぐに近寄って回復魔法を掛ける。



「お、おいっ! 大丈夫か!? 怪我は!? まだ何処か痛むか?」


「い、いえ、大丈夫です。ちょっとビックリしちゃって……これって一体……」


「あぁ、もしかしたら武器かもしれない。ファリスさんに見せた方が良いと思う……」


「そうだな、調べてもらった方が良さそうだ。それにしてもシャーリーがまるで暴れ馬から落馬したかのようで焦った……ん? 馬? そ、そうか、これって……!!」




 なるほど、確かに運搬具だ。

 きっとこれは“馬”の機能を持つマジックアイテムなのだろう。

 そう思って見てみれば、皮張りの鞍(くら)や真横に突き出た 棒のような鐙(あぶみ)も見てとれた。


 直ぐに試乗とは行かないが、なんとか城に持ち帰ってみればどうやら『魔導バイク』と言う物らしく、ファリスに大変珍しい物だと教えてもらった。

 しかもその機能も未だ健在で、魔石さえあれば幾らでも走る。

 オークに対しての活用方法は分からないが、良いものだ

 発見(?)したティアーユも胸を高くしていた。

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