33.「実の母」
モモコの実のお母さんは、
モモコのお父上が大阪の本店勤務時代、仕事上の接待で祇園のお茶屋をよく使っていて、その時に座敷に上がったモモコのお母さんと知り合いになって、やがてモモコをお腹に宿した——と、モモコはぽつり、ぽつりと話だした。
——ああ、なんて、言うのかな、認知? だっけ、モモコは認知されてるの?
——うん、おかーはんは、要らん言うて断ったらしいけど、親父はそれだけはさせて欲しいって、わたしが生まれた時、桐島一族の人たちに土下座したらしいよ
——ふぅーん。男気あるじゃんね
——当たり前でしょ、妻子ある男が他の女に手出して、おまけに孕ませちゃったんだから、それくらい責任取れないじゃ男じゃないよッ
——ふむ。僕にはわからんことだけど……
——だから、ワタシが言うのもなんだけど、浮気したら殺すからね、ゼッタイ
——しねーし。しませんし
——男はみんな最初はそう言うんだ
——俺は、しない、、、はずだ。あ、いや絶対しませんっ
モモコは、所謂、「妾の子」であって由緒正しき桐島家の人々にはそりゃ汚れた血だって言われても仕方ないのかもしれない。けど、お父上やお母さんは当然そういうのに耐えて生きていくべきなんだろうけど、モモコには何の罪もないわけで、たまたま生まれてきたのが「妾の子」としてだっただけで、なんにも悪いことはしてないのだ。
僕は、それを運命とか宿命とかで片付けるのはおかしいんじゃないのかって思うのだけど、世間様はそうじゃないってのもわかるんで、結局そのことには何も言えないけど——って、なってしまったのがちょっと情けなかった。
——で、お母さんの病状はどうなの?
——ん、乳がんの第三ステージかな。発見が遅くて、あっちこっちに転移しててもう手の施しようがないんだって
——いま、入院してるの?
——今はまだ通院で抗がん剤と放射線治療してるけど、夏場乗り切れるかどうかって感じらしいの。だから、来月には入院すると思う
——そっか……
僕はそれ以上、モモコにかけてあげる言葉を見つけられなかった。
——来週末、ちょっと京都に行ってくるよ。担当の先生の話も聞きたいし
——あ、俺も行く。いいだろ?
——いいの? 一緒に来てくれるの?
——当たり前じゃないか。僕にとっても大事なお母さんだし。だろ?
——ありがとう、テツヤ。ほんとは独りで行くのが怖かったんだ……
——うん、、、うん
モモコはまた僕の腕の中で泣いた。
モモコには言えなかったけど、お母さんにもしものことがあったら二度と会えなくなるわけで、その前になんとしてもモモコとの結婚の話をして承諾して欲しかったんだ。桐島家の人々に乞うそれとは違って、自分にとっても大切な人になるという思いからのもので、どうしてもそうしたいと思ったんだ——。
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