【Ishigami】Station
11「ショミンを舐めるなよっ!」
——テツヤ、どうする? それでもやるのかッ?
——あったりめーじゃんっ。これしかモモコと結婚できる手段がないなら、やるっきゃないっしょ!
——テツヤ……、そんなにもワタシが恋しいのか? ん? 愛してるのか?
——ここで引き下がっちゃ、ショミンの名折れ、ってやつよ。格差なんかクソッタレだっーの
——いや、いや、恋しいのか、愛してるのか、って聞いてんだよッ!
モモコが、右足を引いて、両方の拳を顎の下に置いてファイティングポースを取っている。
——ハイっ!、恋しいデス、愛してマス!
——よしッ、なら、いいのだッ ぬ、ははははっははっー
モモコさんは缶ビール煽って、いつものおっさん降臨デス。
——よぉーし、泣き言、言っててもしゃーないッ。やるぞッ! テツヤ
僕は、おとうさまから来たメールに書き込みをして返信をしたんだ。
*ーーーーーーーーーーーーーーーーー*
桃子さんのお父様へ。
参加します———。
いざっ、鎌倉! 待ってろ、ラスボス!
北川鉄也
*ーーーーーーーーーーーーーーーーー*
——ん、なかなか、いいぞッ、テツヤ 絶対、勝ってやる………
——おうっ!。続き、たのむっ! 一日も早くトレードを始めたいんだ、モモコ
また、二人してリビングのラグの上に座り込んで、「入門FX投資ー基礎編」を再開したんだ。
——じゃ、FXの簡単な仕組みを説明するぞ
——はいよ
僕は、またノートを開いてボールペンを握った。
——FXと、株取引きでは、決定的な違いがあるんだけど、なんだと思う?
——FXの取引き対象は、為替レートだけど、株は、企業の株価……かな?
——なんだよ、けっこう知ってんじゃん。
——ああ、それくらいは、大学の「国際金融論」で習ったし
——じゃ、その取引き方法での決定的違いといえば、なんだ?
——取引き方法?
僕はちょっとの間、昔習った「金融論」の講義を思い出してたけど、その違いはわからなかったんだ。
——株は、安く買って、高く売る……、それが基本だろ?その値上がり幅が利益になる……だよね?
——ん、そうだ。
——FX(為替取引)も、安いとこで買って、高いとこで売る……、これ同じなんじゃねーの?
——確かに、そうだ。それは「買い」っていう取引では同じだ。株取引には基本的に「買い」(*1)しか無いんだよ、最近じゃ個人投資家も「信用取引」ってのを使えば「売り」取引もできるけど、金利がついたり、期限が決められていたりと、ちょっと条件が多いから、基本は「買い」取引だけだと思っていいよ。
——つまり、「買った」もんが、買値より高くならないと利益が出ないんだよな?
——そう。しかし、為替取引の場合は、逆もアリなんだ。
——逆??
——高いとこで「売って」、安くなったら「買い戻す」っていう、「売り」取引が為替にはあるんだ。株の一方通行な取引に比べ、FXじゃ、両方から攻めることができるんだ。
——ちょ、ちょっと、待って。その高いとこで売って、ってその売るもんってどこにあるのよ。「買い」の場合はわかるよ、実際、自分のお金で「買った」ものが値上がりすれば、その分の利益が出る、っていうメカニズムはね。
——ああ、そうだな。イメージとして捉えにくいよな。けど、「仮に」って思えばいいんだ、深く考える必要はない。例えば、こうだ。
今、ドル円相場が、一ドル百円だとする。けど、先々を予測すると、ドル安(円高)に振れそうな気がする、そういう場合、ドルを「買い」に行くと、損をするのが見えてるから、「買い」取引はできないけど、「売り」取引を使えば、ドルを高いとこで売って、安くなったとこで「決済」(買い戻し)すれば、差益が取れるんだよ。
——なんか、イメージつかないなー
——百円で、「売って」、九十五円で決済(買い戻し)する、って覚えればいいんだ。逆に「買い」取引で儲かる場合は百円で「買って」百五円で決済(売却)した場合だ。どっちも五円の差益を儲けたことになる。
——「買い」はいいけど、「売り」がいまいち、まだわからん
——明日、テツヤ用のFX口座開設して、そこに三十万円振り込んでおいてやるよ。そしたら、まず「デモ取引」っていう架空の練習取引が出来るようになるから、論より証拠で、実際やってみればわかるよ。
——よし、わかった。じゃ、明日っから実践トレーニングだな
——ん、来週の月曜からだから、今週はデモトレードしながら覚えていくようにしたらいいよッ
——じゃ、今日はもう寝よっか、エッチして。むふふふーん
——勝つまではエッチ禁止だッ!
——ええーマジ?
——ま、いっか、今日は。うん、しよッ!
僕とモモコは、「無印」のシングルベッドに肩寄せ合って眠った。
【脚注解説】———————————————
(*1)「株取引には買い、しかない」
株取引は、一昔前まで(ネット取引が活発になる以前)個人投資家がするレベルの資金量では、基本的に「買い」取引しかできなかった。例えば、一株百円の株が、値上がりして百十円になった、とすれば十円が差益として、儲かるっていう仕組みなのだ。よって、思惑通り値上がりしなかった場合は、そのまま上がるまで待つか、損を承知で見切り売りするしか、手がないのだ。(最近では信用取引も個人投資家に解放されつつあるが、証拠金、担保金を積んで、金利を払ったり、半年以内に買い戻さなければいけないとか条件があるので、フリーハンドなFXの売り取引よりは敷居が高いものとなっている)
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