28.「イカサマな生き方」
作戦通り、僕らは「振りだし」の「藤沢駅」でサイコロを振ることにした。
そのことを、モモコのお父上にメールで知らせると、明日の午後三時にスカイプ中継でサイコロを振るのを見せてくれ、と返信が来た。
サイコロなんて、どこに売ってんだろうって思ったけど、モモコが手のひらに乗せたサイコロを僕に見せた。
——これ、使うぞッ
——すっげぇー、用意がいいなーモモコ
——ふふ、これ、ただのサイコロじゃないぞ
——なに? イカサマとかするわけ?
——そうだよッ。このサイコロは何回振っても【6】しか出ないサイコロさッ
——ええーっ! そんなズルするのかよっ。なんか嫌だなぁー
モモコはふんっ、と鼻を一つ鳴らして、僕を睨みつけて言った。
——あのルールは親父が絶対負けないように仕組んだルールだよ。それならこっちに唯一ある権利を最大限に使うのにイカサマくらい許されるはずだし、それをすることぐらいあの親父のことだ、きっと折り込み済みだよ。
——勝つためには手段を選ばずか……
——嫌なのかッ? テツヤは
——男らしくないよな、そういうのって。正々堂々と……
モモコは僕の首を後ろからヘッドロックして耳元で囁く
——男らしくでそのまま勝てるならそりゃ一番だよ。けどな、テツヤ、この勝負は誰が見たって、1%の勝ち目もないくらい、親父に必勝が約束されたもんなんだよ。そんな甘っちょろいこと言ってるから、負けて命落とす奴の亡霊に追いかけられんだよッ!!
モモコが八坂さんのことを言っているのがわかった。確かに八坂さんは負けたのかもしれない。社会の中の競争とか上司からのパワハラに負けて、自ら命を絶ったのだから。
——勝てば、いいのか? なんだって、勝てばいいのか? そうじゃないだろ?
モモコは僕の首を絞めていた腕を解くと、僕の頭を抱いて言うんだ。
——そうだよ、テツヤ。勝たなきゃダメんだよ、この世の中って
——モモコは強いな……凄いよ……、でも僕にはムリだな。人を騙したり出し抜いて、それで勝って上に行っても、そんなのいづれ自分に跳ね返ってくるよ? それが甘いって言われても仕方ないし、それで負けるなら納得がいくんだよ、僕には
——じゃ、テツヤはこの勝負最初っから捨てるのかよ
——そうじゃないよ。真っ直ぐに馬鹿正直にやりたいんだよ。相手に合わせて同じ土俵に立って戦うなんて、それは僕はできない。それこそ僕にしたらそれが負けに等しいんだ。ごめんよ……モモコ、青臭いとか甘っちょろいとかってこともわかってんだけど……それでもその一線だけは越えたくないんだ
——ったく、テツヤは甘ちゃんだなッ
——嫌いになった? 見捨てたくなった?
モモコは僕の頭を目一杯の力で抱きしめて言ったんだ
——だから、テツヤのことが好きなんだよッ。私には無い、ド真っ直ぐなとこ。
馬鹿正直で、人を疑うことをしないお人好しなとこも。そんなテツヤが好きになったのに……。私こそ、ごめんね。うん……テツヤの好きにしていいよッ!
——アホやな、おれ、ほんま、ほんまアホやわ
——おぉ、ほんまに どあほやッ。あれ? そういやさぁー、テツヤってなんでいつも関西弁で喋らないの? 生粋の大阪人でしょ?
——あぁ……それは、、、
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