27.「お金の意味」
ようやく、金曜日の仕事が終わって、週末になった。
色んなことがあった一週間だった。
金曜の夜、モモコが僕に作ってくれたのは、めんたいこパスタだった。ピリ辛なめんたいこが効いていて、めちゃくちゃ美味しかった。
——モモコって、いつこんな料理覚えたの?
——こんなの誰だってできんじゃんッ。きょうびさ、クックパッドとかあるし
——でも、煮物とか炊き物とか、ほら、なんていうのかな、オカンの味みたいなやつ? ああいうのも上手いじゃん、あれって誰かに教わらなきゃ出ない味みたいなん、あるんじゃん?
モモコは薄く笑っただけで、さっさとテーブルの上を片付けだした。
——さぁ、テツヤ、来週からだぞッ 作戦会議しないとなッ
——作戦? 作戦とかあるん?
——あのさ、テツヤ。あのオヤジが送りつけて来たゲームのルール見てなんも思わなかったのか?
——いやぁーよく考えたなーって、かんじ? なんかさ、オヤジさんてギラギラしてるよね。僕らの世代にはないような……なんだろ、男本来の本能みたいなギラギラ感あるよね
——感心ばかりしてたって勝てんぞッ あのルールの肝ってなんだと思う?
僕はもう一度、お父上からのメールを開き、ゲームの「ルール」を読み返した。
——このサイコロを振る、タイミングって難しそうだよね
——そ!、そこだよっ!! いつ振るのが一番だと思う?
サイコロを振れるのは一回だけ———。
しかも、出た目によっては、「振りだし」に戻ってしまう危険もある。僕は、お父上が命名した「ボンビー駅」の位置を確認して、考えた。
——サイコロを振って、どの目が出ても「ボンビー駅」に停まらずすむのは最初の「藤沢駅」だけだよね。
——そうなんだよッ! これって、オヤジなりにハンデを呉れたとワタシは思ってるのね。
——ハンデ呉れるような、優しいお父上なのか?
——まっ、真意はわからんけどさッ ただ一つ言えることは、半年という短期で七十万円もの利益を上げるには、三十万円っていう元金は少なすぎるってことなのよ。ワタシですら、三年かかったのよ?
——じゃ、なに? 元金は多ければ多いほどいいって、こと?
——単純には言えないけど、チャンスは増えるってことだよ。元金が多いと大きな勝負ができるし、勝負の仕方のバリーエーションも増える。仮に、サイコロを最初の「藤沢駅」で振って、【6】の目が出たとすると、いっきに六コマ前に進める。ただ、オヤジ曰くは、その権利を行使するには六コマ分の三十万円を追加で元金に繰り入れなきゃいけないだけどね。
——うん。追加で、もう三十万なんて、どっから都合すりゃいいんだよ。
——ワタシが貸してやるよ。金利4%で。
——ぐっ、また金利かよっ。やっぱ、そんなに元金の大きさって関係ありなの?
——ああ、思うに、多けりゃ多いにこしたことはないな。
——三十万も、六十万も同じか、借金は借金だしなっ
僕は、そんな言葉が自分の口から出てくることに少し戸惑ったけど、今はそんなことより、早く利益を上げられる方法がそれなら、それも仕方ないな、と無理やり自分を納得させていた。
——っていうことで、サイコロは最初の「藤沢駅」で振ることにするぞ? 出た目の分の追加元金はワタシが用立ててやるからッ
——うん、わかった
僕は、この「ゲーム」に使うお金と、あの小さな文房具店が今、必要としているお金と、どう違うのか——そのときは考えもしなかったんだ。
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