16.「鉄の掟ー五カ条」
とりあえず、僕はモモコがそれを守らなきゃ絶対「勝ち組」には残れないルールってやつを絶対守ってみせる——ってことだけは、その時固く決心したんだ。
こういう時、僕の人を疑わない性格っていうのが役にたつのかもしれない。
守れば、勝つなら、守ればいいんだよ、それ信じて——って感じで。
で、モモコが口を開くのを待ってたら、モモコの携帯電話が鳴ったんだ。モモコはディスプレイに表示された発信者の名前を確かめると、ちょっとゴメン、って言って携帯もって外に出ちゃったんだ。
僕にも内緒な相手って誰よ——、ってちょっとその時はモヤモヤした気分になったんだけどね。十五分くらいしてモモコが外から戻ったんだけど、泣いてたんじゃないかって思うほど、目が腫れてたんだよね。
だから、僕は気になってモモコに聞いたんだ。
——だれ? どうしたの? なんか、あった?
——ううーん、なんも、ないッ
——なんも、ないって、泣いてんじゃん
——いいの、テツヤにはカンケイないことだから……
カンケイない——の一言が、僕にはすっごく冷たく聞こえて、なんだかモモコを遠くに感じたんだよね。
——さっ、続きやるよッ!
——うん……
——あ、ルールの話ね。テツヤのルールを考えてる時間がないから、ワタシが守ってるルールを教えるねッ。きっとそれ守ってたら、大きなケガすることもなく「勝ち組」に残る近道だと思うからッ
——おっけー、じゃ、それ教えて。絶対、そのルール守ってみせるよ
——よしッ、じゃ言うから書きとめてね。
僕は、ノートの新しい頁の頭に「絶対守るルール」って書いて、モモコの言葉を待った。
——ルールは五つだ、一つ目は……
モモコが僕に書きとらせた「五つのルール」は以下の通りだった。
一つ目。『ナンピン買い増しは、絶対しない』(*1)
二つ目。『損切りを必ず設定し、それを絶対動かさない』(*2)
三つ目。『一日の許容負け額を決めて、それに達したら、その日はやめる』
四つ目。『自分の判断に絶対の自信をもって、決してグラつかない』
五つ目。『チャンスが来るまで、じっと我慢する』
——以上、この五つだよッ
——これだけ?
——そ、これだけ。これだけ守れたら、テツヤは「勝ち組」だよ
——なんかわかんない専門用語あるけど、これって本に載ってるよね?
——おう、基本中の基本だから書いてるはずだ。勉強しといてくれッ
僕は、この五カ条を「鉄の掟」と呼ぶことにしたんだ——。
けど……、僕がこれを守ることがどんだけ大変なのか知るにはもう少し時間が必要だった。
————————————————*
脚注(*1)【ナンピン】
相場が思う方向に行かず、買った(売った)値より逆行した場合に、追加で「買い増し」や「売り増し」すること。平均単価を切り下げることで、全額の根戻りを待たず、決済できる利点がある。また、相場の行方に絶対の自信がある場合に追加で「買い増し」「売り増し」することは、ナンピンとは少しポジティブな意味では、区別して言う投資家もいる。
脚注(*2)【損切り】
相場が思う方向と逆行して損失が発生している場合、早めに見切りをつけて損失を出来るだけ少なくするために「見切り決済」すること。
FXの世界では、予め、この「損切り値」を設定できるので、相場が急変した場合でも、その指定した「損切り値」での損失以上の損を被ることがない。従って、プロでもこの「損切り」を出来るかどうかで、トレーダーとして独り立ちできるかそうかの判断材料としている。往々にして、人間というのは、損をしたくないので、予め設定してある「損切値」をズラしてしまうことがあるのだ。
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