25.「レパレッジ効果」
そんな、こんなでモモコから積年の「?」を聞き出せたことと、残りのオムレツを平らげたことで、僕の荒んだ心はかなりの割合、回復してたんだ。ただ、そうなってみると、つい数時間前に自責と途方もない自己否定みたいなんに襲われズタズタになってた自分ってなんなん? ってのと、そんなに軽いもんなんか、人一人の死なんて——みたいな新たな黒い雲が僕の胸の内にかかりかけた時、またモモコが計ったように、僕を「入門FX投資ー基礎講座」に誘い込んでくれたんだ。
——さっ、休んでる場合じゃねーぞッ 来週から本番スタートなんだからなッ
——うん、そうだねっ やるかっ!
二人して、シンクの前に立って食器洗いと、後片付けを、ちゃちゃ、っと済ませて僕らはまた、向かい合ってラグの上に座った。
——昨晩のは、ガチだったけど、今日は本当にホントのデモトレードだ。またマグレで儲かっちゃたりすると出金するのも面倒だし、そのラッキーを来週まで取っとかんとなッ
——まぁー、確かにマグレだとは思うけど、あれでモモコ,ちゃんと徴集したじゃん半年分の金利と名義貸し料
——あったりめーじゃんッ このモモコ様がタダで動くとでも思ってたのかよッ
——ええーっ、恋人同志じゃん、それにいずれ結婚するんだし
——テツヤが負けたら、ケッコンハナシ、ナシじゃん
——ぐへっ、モモコはそれでもいいのかよ!
——勝負は、勝負だしなッ。しゃーない、しゃーないッ
そう言ってモモコは、ノンビリとコーヒーを啜ってやんの。まぁー、そりゃね、出会いが「おんぶ」萌え、ですから? 結構あっさりとモモコに捨てられたって、仕方ねーな、とは思うんですけどね……
——ほら、テツヤ、これがデモ画面だ。現在の「純資産額」以外は全く同じだろ?
現在の純資産額:【5,000,000円】ってなってるのを見てビックリしたけど、まぁー架空のお金なんで、これがたとえ【0】になっちゃったところで、痛くも痒くもないのだけど。
——いま、油断したろ、テツヤ
——へ?
——どうせ、デモだし、負けてもいいって思ったろッ!
——うっ、わかった?
——だから、デモトレードなんかやっても意味ねー、って言ったんだ。それじゃ実践の訓練にならないんだよ。
——だってさー、どうやっても緊張感出て来ないよ? これじゃ
——よし、じゃー 恐ろしい目に逢わせてやろう
そう言うと、モモコはカチャカチャと、なんかの「設定」を変更した。
——じゃ、これで、やれよ。投資Lot数、30枚に変更したから
——30枚って……、どれくらいの投資金額になるの?
——簡単に言えば、「ドル/円」相場で1$=100円だったとすれば、その時にドルを【買い】に行ったとする。すると……1Lotは10,000通貨だから……
モモコは僕の「FXノート」に計算式を書き込んだんだ。
10,000通貨 × 30Lot ×100円=30,000,000円
——つまり、ワンクリックで、テツヤは三千万円分の取引をすることになる
——ぎぇーっ!! もし、負けたら、即クビ吊じゃん! いや、ちょっと待ってよ
デモ取引だけど、最初の設定「純資産額」は五百万円だったじゃない。足りないじゃん、ぜんぜん。
——それが、レパレッジってのを使うと、可能になるんだ。
——レパレッジ?? (キリン?)
——日本語で言えば、「テコ」だ。少ない元金でも大きな取引ができるシステムで、今の日本の法定上限は25倍まで可能なんだ。
だから、元金が五百万でも……
また、モモコがボールペンを握って書き出した。
5,000,000円 × 25=125,000,000円
——つまり、五百万円の元金では最大、一億二千五百万円分の取引が出来るんだ
——すっごっ。ああぁー、だから、失敗して首吊る人とか出てきちゃうんだね?
——あぁ、まぁそうだな。けど、素人はちゃんとルールさえ守ってりゃ一瞬で全部失くなるなんてことはないから心配するな
——で、本チャンの取引の元金は三十万円だったろ? さて、テツヤは幾らまでの取引が出来るんだ?
僕は、空目で頭の中で「300,000円 × 25」っていう計算式を書いて暗算した。
——七百五十万円……かな?
——そうだ。FX投資はこのレパレッジってのを使って少ない元金でも大きな取引が出来るんだ。投資金額が大きいほど、利益が乗った時大きく儲けられるのは株取引と同じだ
——なるほど。じゃ、もし30Lotで投資して、一円の為替レートが高くなったら、その時「買い」で取引してたら、幾ら儲かるの?
——それは、こうだッ
30Lot × 10000通貨=300,000通貨
300,000通貨 × 1円=300,000円
——よって、三十万円の儲けだ
——じゃ、十銭の値上がりだと、三万円の儲け、ってことか!?
——おおぉ、さすがに呑み込みが早いなッ
僕は、その時気がついたんだ。
十銭の値動きなんて、どうかしたらほんの数分で動く為替の世界だと、30Lotの取引だと、数分で三万円の儲けが出てしまう——ってことを。
三万円——、それは僕が学生の時にやってた家庭教師のアルバイトの一月のバイト代と同額だった。週二回、月に八回の二時間の労働をした対価と同じなのだ。
「マネーゲーム」、という意味がなんとなく分かった気がした——。
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