29.「モモコの出生の秘密」

——別に、大した理由があるわけじゃないんだ。ただ、たまたま大学で友達になった奴が、東京とか横浜から来てる奴ばっかで、それに合わせてたらこうなっちゃった、ってだけで……大阪人の風上にもおけん奴なんよ


——ふぅーん。私は大阪弁好きだけどなー、あんまりテツヤの大阪弁聞いたことないけど、大阪の人は大阪弁使えばいいじゃん。まして京都に居たわけだし、絶対多数で関西弁が多いでしょッ


——うん。そこがまた僕の意思のなさ、っていうかすぐ人に流されるんだよねー

——その割には、さっきは頑として拒否したじゃねーかよッ、イカサマすること

——ああ、あれはね、あれは、、、なんて言うか生き方っていうか僕の中では最低限の矜持みたいなもんなんだよ。ちっちゃい矜持だけどね……、けどあれだけは一線越えたくないんだな

——まぁーそれで社会を渡っていけるんなら、それはそれで美しきかな、だけどねッ。さて、二年、三年後のテツヤが楽しみだな

——なんだよー、脅かすなよ。モモコが逞しすぎんだよ。女子のくせに

——ワタシだってね、好きで逞しいのやってるわけじゃないんだよッ!

——お嬢様なんだから、もうちょっと気楽におっとりいけばいいじゃんっ

——テツヤさ、ワタシのこと、本当にお嬢様とか思ってるわけ?

——成城のお嬢様じゃん。頭取の娘だし……どっから見てもお嬢様だろっ


 モモコは僕の顔をじっと見て何か今まで見たことのない薄い笑みを漏らして言ったんだ。


——ワタシさ、ほんとはね、妾の子なの。だから、あの家には引き取られただけなんよ。親父は京都に住むワタシの本当のお母さんに私を産ませて、中学に上がる前に引き取ったんだ


 寂しいとか悲しいとか、っていうそういう表情じゃなくて、なんだろ、全てを受け入れて昇華しきってしまった人間の強さみたいな佇まいでそう言うもんだから、僕には一言も返す言葉がなかった。


——だからね、あの家ではワタシはお荷物なのよ。親父が強引に引き取った形だけどね、桐島一族にとってワタシは汚れた血なんだ。だから、ずっと……


 モモコの大きな瞳から大粒の涙が止めどもなく落ちて、ラグの毛足の中に消えていった。モモコは細い指をぎゅっと握りしめて何かに耐えていた。

僕は何も声を掛けてあげられなかったけど、モモコの華奢な体を引き寄せて思いっきり強く抱いてあげたんだ。今度は僕の番———とばかりに。


——そっか……そうだったんだ

——ん……っ


 モモコは僕の胸の中で嗚咽を繰り返しながら僕の背中を小さな拳でトントンっ

て叩いた。


——そっか、だからこんなに逞しい娘になる必要があったんだね。そっかそっか

——お嬢様じゃないよッ、テツヤ。こんなんでもいいの? 嫌いになった?


 僕は、モモコの後髪を優しく撫でながら、耳元で答えてあげた。


——関係ねーし。モモコはモモコだし。お嬢様だろうが平民だろうが、オレには最高のカノジョなんだよ? めっちゃ好きやし


——ほんと? 浮気とかしない?

——しない、しないっ!……たぶん、、、

——あ、なんだってッ?


 モモコの声音が凶悪化する。俺、ビビる———。


——もし、浮気したら、殺すからね

——し、し、しっ、ませんよ、ゼッタイ、しませんっ!

——よしッ


 その夜僕らは仲良くエッチしてぐっすり眠った、昼前まで。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る