第33話 私じゃないよ、猫が言ってるの


 夫は腰が重い。一度座ったらなかなか動かない。


 私がキッチンでアレコレやっている時に猫のご飯時間が来た。


 にゃーんにゃーんとまとわりつく猫達。


「ねえ、ご飯あげてよお」と近くのソファーに座っている夫に言う。

「う~ん、今行く」


 そして、なかなか来ない。猫の声が大きくなってくる。

揚げ物してるのに足元でにゃんにゃん鳴いている。ぐるぐる回ってる!なのに夫は来ない。


「ねえ!!早く飯くれよ、ジジイ!!……ってチャチャが言ってる」と思わず言う。

「え~!チャチャはそんなこと言わないよねえ」と夫がチャチャに微笑む。

「くれねえと、お前食うぞ!……ってコタが言ってる」たたみかける

「今行くって」とまだコンピューターを見ている。

「今すぐだよ!クソジジイ!……って2匹共言ってる」

「もうわかったよ、ひどいな。言い過ぎだよババアって猫達が言ってない?」

「な!ババアってなによ!!」自分から始めたくせに喧嘩になる。ひどい嫁だ。


 まあ、そんなふうに日常会話に猫を利用する時がある。よくある。アメリカでは宿題を忘れた時の言い訳に「犬が食べてしまいました My dog ate it.」というのがある。本当に食べるかどうかは犬を飼ってないのでわからないが、この言い方よくあるのだ。

猫も紙をかじる。夫の大事な書類の端っこには、だいたいコタロウの歯型がついている。


「ああああ~~~!!コタロ~!!やーめてえ」と絶叫した。大男の大声に驚いたかわいそうなコタローさんは逃げていく。


「そんな所に出しっぱなしのお前が悪い……とコタローが言ってる」と言ってあげた。そして

「そんなロシアの熊殺しみたいな人が大きい声出したら怖いから!やめてね」(ロシアの熊殺し)は軍を引退してあごひげをもじゃもじゃに生やしている夫につけたセンスあるニックネームだ。

コタローに謝るロシアの熊殺し。大きな背中を丸めて「ご~めんねえ、こたちゃん」と大きな手で背中をなでている。よし。


 そんな愛されコタローさんは紙とテープが大好きでテープの粘着面に目がない。テープを貼る音で飛んでくる。ぐっちゃんぐっちゃんにするのが大好きなのだ。変な趣味だ。それからプチプチと潰れる梱包用のエアバッグ。あのプチプチを潰すが好きな人も多いがコタローも大好きで咥えて持っていき全部のプチプチをせっせと潰している。 


 問題児チャチャさんの最近の趣味は家で仕事をするニンゲンにいちゃんのお手伝いだ。

(コンピューターをずっと見ていると目に悪いから見せないお手伝い)

(カーソル見える?ここだよと叩いてあげるお手伝い)

(書類できないの?じゃあ書いてあげるねのお手伝い)


今日も「わあああ~チャチャ~!!」と悲鳴が上がっていた。


 私の部屋にもやってきて、パソコンの後ろに寝そべったり、そこから覗いたり、角で歯を磨いたりしていた。いつもなら「チャチャーありがとう、来てくれたの?」と撫でるのだが、この日は集中して書いていた。むっとしたチャチャ。


 キーボードの上をカッシャカッシャ歩いていかれた。


「わあああ、やめて~~」今度は私が叫ぶ番で一緒に仕事をしていた夫と息子の笑い声が1階から聞こえる。


あshりうあy;bんふぉp  画面に変な記号が並ぶ。


 この猫エッセイにこんな言葉が並ぶようになったら、それはチャチャが書いたと思ってください。

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