第19話ハワイから帰ってきたら 旅行編3


 ハワイから帰ってきた。 家の売却の仕事のために行っていたのだが、なんと5日間だけという今時ツアーでもないような短い日程だった。


 その一週間前にもネバダ州に軍関係の仕事について行った。この時も5日間だったのだが、大学に行っている息子が夏休みなのでここに来て猫の世話をしてもらった。世界一信用できるシッターさんだ。


 前回一生ここに決めると決意したホテルも心配ないのだが、やはり住み慣れた家と猫達が来てからずっと一緒にいる息子のほうが安心だ。


 なにより猫達は息子が大好きで兄弟のようだ。夜は一緒に寝て、朝は毛づくろいをされているらしい。 私もたまにチャチャがしてくれるのだが、髪が長いので途中で「にゃご、ごおええええ」とえづいている。 ごめんよ。チャチャ。


 息子が大好きな理由は一緒に暮らし、優しくしてくれて遊んでくれるからだと思うのだが、前回のホテルのお姉さんのように理由が全くわからない場合があるのだ。


 そして私は今回ハワイの隣人の猫に猛烈に愛された。


 10年以上も離れていたハワイ。隣人も新しくなっていた。とてもフレンドリーな女性が私達を家に招き入れてくれた。 小さな(いや普通サイズなんだけど、うちの猫と比べると)猫がいる。 白地に黒い模様のハチワレと呼ばれる種類で、あごひげに見える模様がある。


 「か、かわいい~~~」なに猫ちゃんでも大好きだ。名前はニコだという。


 ニコは胡散臭そうにじっと見て今にも逃げる素振りをしている。 

しかし飼い主さんは「これ、ニコにやられたの」と腕中にある傷を見せてくれた。穴が点々と開いている。 


 ごくり。 チャチャ以上の凶暴猫だ。


 「たぶんすぐに逃げると思うわ、あ、そばに来たら噛まれるかも」


 どきり。 しかーし、かわいい。


 「ニコ~❤ハーイ」と高い声をかけ床に座り目線を合わせた。 猫は高い声が好きだと聞いたことがある。 そしてニコと同じサイズに小さくなリ、床に頭を付けた。 


……って今書いていて思ったけれど、初めてのお宅でなにをやっているのか、この人は。


 とにかく「私味方よ、敵意はないのよ、ほらサイズも同じよ」をアピールした。

ニコはタタタと走り寄ってきて、頭の匂いをかぎ、体中を押し付け、鼻にキスをしてくれた。


 飼い主さんはぎゃ~っと叫び「こんなニコ見たことない!なんなの!私は今でも噛まれているわよ!裏切りもの~~」と笑った。


 すごく嬉しかった。 猫と赤ちゃんには割りとすぐになつかれるけど、凶暴猫にここまで心を許されたのは始めてだった。


 猫に信用されるこつは、最初から近づかない。手を出す時はグーで匂いを嗅がせる。そして目をつぶる。だ。目をじっと見つめてしまう場合が多いけれど、これは逆効果で目線をそらしたほうがよく、目を閉じるのは「あなたを信用していますよ」という意味だ。


 本を読んで猫の心理のようなものは勉強したけれどやはり一番は「大好き!」という気持だろうと思う。動物は人間の言葉は話せないけれど、なんとなく心を読んでいる気がする。


 動物園でゴリラに「大好き!」とガラス越しに言ったら求愛されたこともある。本当だ。ゴリラは背中をガラスにドンと押し当てて「さあ、遠慮せずにノミをお食べなさい」と肩を自分でトントンした。

「ありがとう、でも私達の間にはガラスがあるのよ」とガラス越しに背中を合わせて、虫を食べるふりをした。美しい友情の成立だ。


 見ていた人は皆大爆笑していたが。


 話を猫の話に戻す。

凶暴ニコになつかれ、「ああ、やっぱりそうだよね、可愛い!大好き!っていう心が通じるんだよね」と帰りの飛行機内でも話しながら、やっと帰宅した。

ハワイからオハイオはアリゾナかLAなどを経由して飛行時間も10時間位かかる。


 「早くチャチャとコタローに会いたいね」とはやる気持ちを押さえ、ドアをそっと開けて「ただいま~!」と言った瞬間。


 シャーと威嚇したのは、もちろんチャチャだ。


 そしてコタローもソファーの下に隠れようと頭を突っ込んだ。


 ……はあああああ。脱力。


 猫様達はどうやら家を開けた私達を怒っておられる。

 

 それからなだめすかし、やっとお許しを頂いた。チャチャはシャーシャー言うくせにすぐに忘れてゴロゴロをはじめる。目を閉じると目を閉じてくれる。猫がこれをするのは「僕も信用しているよ、大好き」という最大級の好意なのだ。


 「ありがとう、チャチャ。 はい!コたちゃんも」とコタローの顔の前で目をつぶり、そっと目を開けた。

 

 コタロウの両方の目は「か!!」っと見開かれていた。


 コタロウさん、そろそろ許して下さい。

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