第11話 静脈瘤の手術を終えて



 8日前の5月10日、静脈瘤の手術が終わった。 乳がん関係の大きな手術を含めると10回目の手術だ。14年前の手術の記録は(乳がんサバイバーと呼ばれて)に詳しく書いた。命にかかわるのでなければ、もう手術はしたくないと思っていた。

 

 「もう手術嫌なんです。大変な手術だったら、もうしたくないんです」と言った私に「イージーイージー」と言うドクター。そりゃあ、手術するほうはイージーかもしれないが。


 「切ったり縫ったりしないから、血管の中だけだから前日の準備もないよ、全身麻酔じゃないしね」

「え!切らない?全身麻酔ではない?ロコ(部分麻酔)ですか?」

「うん、そう。血管をレーザーで焼くのとスーパーグルーで埋めちゃうの」

「え~~グルー接着剤?」

「そう呼んでるだけ、医療用だよ、もちろん」


 てな会話をカンファレンスでした。そして広範囲なので2回にわけてしてもいいよと言うドクターに「1回で!」と答えた。私は男らしいのだ。


 「じゃあ、当日は腿の方から初めて気持ち悪くなったら、やめよう。出血が多いからねー」


 うう、聞いてないよ、そんなこと。でもまあ何回もの大手術に耐えたんだもん、だいじょうぶよねー。と舐めてかかっていた。


 そして手術当日。舐めてかかっていたけれど手術台や並んでいる器具を見るとやはりドキドキしてきた。


 手術が始まる直前「今日はスチューデントの見学が入るんだけど良いですか?」と聞かれた。インターンや生徒の見学に良い思い出がない。出産時に見学が入り、股間を覗き込んで「うわあ~」と吐きそうな顔をされた。 気持ちはわかるが大変失礼だ。そんなところ覗き込んで言うセリフか? 


 それでも、どんな名医もきっと「初めての日」があったはずで、やはり練習が必要だよねと優しい私は快く了解した。 そしてすぐに後悔した。


 3人ぞろぞろ入ってきて、関係ない話を延々してる。 ベッドに寝かされてる私。手術着と片足はむき出しだ。ドクターは「さ、始めるよ~」とお気楽な感じで手を洗っている。助手も一緒に長い間手を洗う。そして手袋をしてマスクを付ける。


 左足の腿の上から足首までの広範囲なので、かなり(つけね)のところから消毒が始まった。掛けてある布をぐいっと引き上げ、太もももあらわに。そして下着も上にずらされる。足元にいた生徒全員におパンツを見られた。そこはまだ見なくて良いのに。術式が始まると流石におとなしくなり注目している。


 しかし、よく見ると音楽に合わせて体揺らしてる!のりのりだ。 もしかしてずっと踊ってるのかと思ったが、途中から決められた仕事をやりだした。何かの器具を取り出そうとしてドガシャーンと落とす。手術でナーバスになっている私は飛び上がりそうになった。そして音楽が気に入らないのか勝手に曲を変えてる。

 

 手術台の真ん中で半ケツ出してる姿で「あ~もうまた落としたあ」「また踊ってるう~」「手袋してるのにラジカセのボタンいじってる」とずっと心配だった。気の強いアメリカ女性ならきっと「出ていけえ」と叫ぶだろう。


 しかし手術台の上でまな板の上の鯉状態な私。麻酔注射も結構痛く、細かい作業中で真剣なドクターと助手の前で何も言えなかった。一度真上の大きなランプを見るとミラーが真っ赤に染まっていて「アレはワタシの血?」と思うと意識もすうっと遠のきそう(全然男らしくなかった)


 手術は1時間半ほどで終わり、包帯で足をきつく巻かれて家に帰り、その日は延々と寝た。手術そのものよりもトレーニングの方に疲れてしまった。


 ベッドには猫が当然のように乗ってきた。コタローは普段ベッドで寝ないのだが、具合が悪い日は必ず2匹で飛び乗ってくれる。 どちらも顔を覗き込み、そして添い寝をしてくれた。もちろん猫は何も言わない。 ゴロゴロと言いながらそばにいる。


 痛みもイライラもすーっと消えていく。熟睡して目が覚めると、チャチャがまた顔を覗き込んでいた。「だいぶ良くなった?」というように。

 

 にゃんずはあの日の生徒よりも何倍も素晴らしい看護師なのであった。目が覚めると2匹がそばに居てくれる。気がつくと顔を覗きにやってきてくれる。何度も何度も。


 ただし、食いしん坊のコタローさんはドーンと患者の胸の上に乗って「ごはん」と言ってきた。お腹が空いている時は容赦なしのナースなのだった。

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