第3話 ERに行った話
ファットチャチャは買い物袋で遊ぶのが好きだ。危ないからすぐに取り上げる。朝私が起きない時はわざとガサガサと遊ぶふりをする。
ガサガサ、ガサガサ、ガサガサ、ガサガサと延々やり
「ん、もう~うるさいなあ~」と起きると、嬉しそうに後ろの私を確認しながら階段を駆けおりる。
その日も2階の部屋で空っぽの袋に頭を突っ込んで中を掘る遊びをしていた。
ガサガサ、ガサガサ、ガサガサ、ガ……ガッ
次の瞬間
「ぶぎゃあああ~ごぎゃあああ~まおわおわ~☓@#$%」
ものすごい叫び声とともに私の前を白い塊が駆け抜けた。頭と足が抜けなくなりパニックになったのだ。
ドガーンドンドン!と大きい音を立てて階段を半分落ちていった。
そのままリビングをぶぎゃああ~~と走り回った後、ソファーの隅っこに隠れた。心配した夫がすぐに駆け寄り
「チャチャ、大丈夫?」と言うと、ブギャ~~
「これ取ろうね」フギャ~~
「ほら取れたよ」フカ~~
「どこか怪我はない?」シャ~
完全に元不良に戻っている。でも八つ当たりだ。自分で勝手にかぶって引っかかったんだよね? 夫のことは舎弟と思っているようなところがあるチャチャはいつもこんな感じなのだ。
怪我をしたんじゃないかと心配した私は足を触ると、威嚇された。
夫には100万回シャーしても私には数回しかしたことがないのに!(でも数回されてるんかい)
「わああ痛いんだよ、折れたのかも!」少しびっこを引いてる!そしてよく見ると後ろ足の中指が人差し指に引っかかってる!!
アメリカ人がやる中指を人差し指に重ねる(幸運を祈る)の時のジェスチャーみたいになってる!
きゃあああああああ。
ケージに入れ、あのコーティアロー先生のところへ。 でももう夕方で閉めるところ、24時間のERを紹介してもらいすぐにそちらに行った。
かなり混んでいたが、すぐに人間界で言うところの看護師さんが来て
「今日はどうしました?」と聞いてくれた。
「買い物の袋を頭からかぶって走り回って…」と説明しかけたら「ぶっ」と笑われた。
「猫って面白いことするわよね」
「はい、で、多分階段駆け下りたときに足の指を怪我したみたい。折れたかも。こんなになってしまって」と夫と猫の足の前をする変な夫婦。
クスクス笑いながら看護師は
「じゃあ先生のところ行こうね」とキャリーを覗き込むと
「シャー!!」
「あ、あのお、チャチャはちょっとワイルドでして、暴れるかもしれないです」
優しげな先生も出てきた。
「聞いてよかったわ、じゃあそういう対策をするわね」
キャリーごと奥の部屋に連れて行かれた。いつもの獣医は一緒の部屋に入れるので猫も安心していられるけれど、ここは完全に見えなくなっていた。
奥の部屋から犬の泣き声も聞こえるが猫がものすごく大きな声で叫んでいた。
「あれ、チャチャじゃありませんように」と夫と祈った。
2時間くらいかかったかもしれない。 やっとでてきたERの先生は入るときよりもあきらかに老け込んでいた。
チャチャを抱っこして出てきた。バスタオルでグルッグル巻きにされていた。なるほど、これがワイルドな猫に対する(対策)なのか。
私たちは心配で半泣きだったのだが、イモムシのようにタオルから顔だけ出ているチャチャを見て笑いそうになった。
そして獣医は一言「なんともなってないです」と言った。
「え??こんなになってたんですけど」とまた猫の真似を夫婦でした。
「打ち身だと思うわ、痛そうだったから鎮痛剤は打ったけど骨も筋も痛めてないわよ」
「良かった!」
「もう少し調べたかったけどレントゲンも大丈夫だし、それに
ああ、やっぱりあの声はそうだったのかも。すみません、すみません。
バスタオルを外して抱き上げたチャチャの重みが嬉しかった。命の重みだ。そして家族には甘えん坊のチャチャは顔を押し付けてしがみついてきた。
本当に本当に良かった。
病院行きの車の中では鳴きっぱなしだったのに、帰りの車ではおとなしく、鼻歌歌いそうな雰囲気だった。もう帰るとどうしてわかるのか不思議だ。
面白い遊びをして私達を笑わせてくれるけれど、気をつけなければいけないと強く思った日であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます