●いきなり進展あり!
「初生、告白しちゃおう!」
勢い込むあたしに、初生は小さく悲鳴をあげた。
「む、無理だよ」
「頑張ってみようよ! あいつだったら間違いないって、あたしが保証する!」
「で、でも、えみちゃん……甲斐くんには、好きな人いるから……」
「んなことないない! あたしはあいつの噂なんて聞いたことないよ」
「わたしはそんな、別に、告白なんて……ただ、勝手に想ってるだけで」
あたしは初生の肩をガシッとつかんだ。
「聞いて。初生は、あたしにとって大切な親友なの。いつもハッピーでいてほしい。楽しく笑顔で過ごしててほしい」
「う、うん」
「瞬一も同じなんだ。大切な家族だから、幸せになってほしい。夢に向かって頑張りながら、高校生らしいハッピーも手に入れてほしいの。好きな子と一緒に、登下校したり放課後の図書室で勉強したり、ときどき寄り道してデートしてキャッキャうふふして」
「さ、最後のは何?」
ってことで、本題。
「だから初生、瞬一と付き合うのだ! 2人がカップルになれば、2人ともハッピーになれる!」
「ちょ、ちょっと待って」
「あたしとしては、初生と瞬一がくっついたら最高だよ! あたしの大切な2人がめでたく幸せになるなんて。そしたら、あたしも心おきなく自分の恋に邁進できる!」
「えみちゃんはいつも邁進してると思う」
「ん? 何か言った?」
「あ、あのね……」
「初生はかわいいし優しいし頑張り屋だし、あたしが男だったら、絶対ほっとかないよ。変な男には渡さない! その点、瞬一なら合格点。あいつならバッチリOKって、いとこであり姉であるあたしが保証する。まあ、無愛想は直してもらわなきゃ困るけど」
でも、初生が彼女になったら、瞬一も変わるはずだ。クールぶってられなくなる。初生のかわいさは、親友であるあたしが保証する。思う存分、瞬一をめろめろにしちゃったらいい。
突然、咳払いが聞こえた。男子の咳払い。っていうか、あたしのよく知ってる咳払い。
まさか。
あたしと初生は同時に振り返った。
「瞬一! いつからいたの!?」
しかめっ面の瞬一がベンチの背後に立っていた。ほっぺたも耳も真っ赤。そりゃそうか。自分が恋バナのネタになってるのを聞いたんだもん。
「気付け、バカ。けっこう前からいたよ。いじめの話あたりから」
あちゃ~。それ、ほとんど全部聞いてるじゃん。
あたしは初生の様子をうかがった。よろしくない展開のような気がする。初生は両手で口元を覆っている。大きな目に透明な涙が盛り上がった。ヤバい、泣かしちゃう。
瞬一があたしたちから顔を背けながらうつむいた。眉間のしわは消えないし、耳の赤さも引いてない。長いまつげの陰で、どんな目をしてるのかが見えない。低い声が、鋭い調子でささやいた。
「おれが初生さんと付き合えばいいって、それが笑音の本心なのか?」
「あれ? 瞬一、初生のこと名前で呼ぶんだ?」
「名字を知らねぇんだよ。いつも、家で笑音が『初生』って呼んで話をするから、下の名前と顔だけ知ってる」
瞬一にとって、初生はそういう距離なんだね。付き合えばいいって発言、早まったかな。だって、まさか本人の耳に入っちゃうとは思ってなかった。
どうしよう? これ、あたしが招いた事態だよね。どうやったら収束できる?
初生が、そろそろと、口元の手を下ろした。かわいい形をした、ちっちゃくて柔らかいその手が、胸の前でキュッと握られる。初生は瞬一を見つめた。
「わ、わたし、遠野初生です。えみちゃんと同じクラスで、看護師を目指してます。覚えてないかもしれないけど、わたし、甲斐くんに助けてもらったこと嬉しくて、そのときから、ずっと……す、好き、でした。わたし、甲斐くんのことが、好きです」
初生は、手も声も震えてるけど、ちゃんと目を上げていた。瞬一は地面を見たままだった。
「遠野さんのことは認識してる。いじめられてたときのことも覚えてる。気持ちも、わかったつもりだ。でも、今すぐは答えられない」
珍しいな。瞬一が白黒ハッキリさせないなんて。初生はかぶりを振って、もう1度、震える声で告げた。
「わたしは、甲斐くんのこと、好きだけど、付き合ってほしいとかじゃなくて……ただ、好きでいさせてください。これからも。それだけです。ほんとに、それだけでいいの」
瞬一はうなずいた。
「返事、先になるけど、ちゃんとする。今はごめん」
息苦しそうに言って、瞬一は校舎のほうへ走って行ってしまった。
初生が、ふーっと長い息を吐いた。それでようやく魔法が解けたみたいに、あたしの肩の力も抜けた。
「初生ー! 頑張ったね!」
あたしは初生を抱きしめた。ちっちゃな体は、まだちょっと震えてる。
「甲斐くんね、昼休みや放課後、ここで参考書を読んだりしてるの。もしかしたら、今日も来るかもしれないって思ってた。ちょっとだけ、心の準備はできてた」
「いつかここで告白するつもりだった?」
「わからない」
「あいつがOKしてくれたらいいね」
初生は、あたしにキュッと抱きついてきた。
「次は、えみちゃんが頑張る番だよ」
「あたし? えっ? 頑張るって?」
「風坂先生に告白」
ぐゎん、と頭が揺さぶられた気がした。告白なんて考えたことなかった。片想いでいいと思ってた。だって、見つめてるだけで幸せなんだ。
初生が何だか遠い。初生は告白した。想いが実るかどうかわかんないのに。それってすごく怖いことだと、急に感じた。
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