#30


 少し嫌な話をしよう。


 実のところ私は、娘さんはもう死んでしまっているのではないかと考えていた。その可能性は高そうだった。良く見るニュース映像を思い出した。行方不明の子供の捜索。生存を信じる母親と、川を長い棒で突く捜索隊の映像。悲しい。その悲しい捜索を、私たちは粛々と行っているのではないか。

 そんなことで、私は漫画喫茶に行きたくなった。みんなで行こうじゃない。ヘイ。行こうよ。笑い話でもしながら。ううん、嘘だよ。でも、事件が解決したらどうかな? まあ、漫画喫茶なんてところに大人数で行ったって仕方ないのだけど、今までずっと一人で通っていた分、一人じゃないというだけでちょっと楽しかったんだ。大半が、妖怪か幽霊ではあったんだけども。思春期の女子としてはヤバめの発言なんだけど、それでも楽しかったからね。またみんなで行こうよ。

 幽霊は私に姿を見られたのが切っ掛けとなってか、あの後数回接触してきた。接触と言うのは、何となく声が聞こえたり、意味もないのに悲しい気持ちになったり、私のものではない記憶がふと浮かんだりという現象だ。段々と、一日がにぎやかな物になってきた。人間誰しも一人ではないという言葉を何度も聞いてきたが、こういう意味だったのか。


「ねえ」私は言った。「あの掲示板を使ってる妖怪って、他にどんな人がいるの?」

「ひ、人?」

「妖怪」

「す、す、そうだな」


 遠くでパトカーのサイレンが鳴った。ツチニョロンは「ハッ!」と体をビクつかせたが、私はもう相手にはしなかった。

 私は思った。落書きにせよ、何か書かれていたわけだから、それを頼る手はある。落書きをした妖怪を見つけ出して、話を聞いた方が良い。じゃないと、今にも自分が、漫画喫茶に行こうとか言い出しそうで怖かった。

 ツチニョロンは伝言板を使う妖怪を挙げて行った。


「あ、あの、屁の仙人」

「へえー、そうなんだ」

「ええと、大ムカデ」

「うん」

「ブ、ビーバー人間」

「うん」

「肥溜めぶ、ぶぉ、坊主」

「うん」

「ひ、人食いまだら大鬼」

「うん」

「き、キング、く、人食い大まだら鬼」

「ビーバー人間さんに会いに行ってみようよ」


 私は独断で、先陣を切って歩き出した。

 しばらく行ってから、後ろを振り返ってみた。


 みんな、ちゃんと付いてきていた。

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