#24


 こんにちは。私は私です。

 私は、近藤果歩として、今まで普通の暮らしをしてきたんだ。

 普通というものがどの程度普通なのかは分からないけど、現状よりはずば抜けて普通だった。

 私は普通に戻りたかった。


 私たちには、また、仲間が増えた。ツチニョロンという圧倒的に不気味な仲間だ。

 様々な妖怪が寄り集まり、良い感じに体を成して来たのではないかと思う。

 名付けるならば、第三次妖怪戦争平和維持団。

 仲間は増えたが、問題も増えた。私は、数ある問題の、どこにまで踏み込んで良いものなのだろうか。それとも、その結末まで、全てを見届けるべきなのだろうか?


 南に一通りの事情を話した。この男の肩書は心霊研究科兼除霊師で、名刺を見れば一番頼りになりそうなものだが、実際は屁の役にも立たない。

 ツチニョロンが先頭切って歩き始めた。何の説明も無しに。

 私がその後に付き、南は私の横、少し後方をふらふらと付いて来た。ひきつき坊はいつものように、私の真後ろをマークしている。物静かなペッチペチの母と、更に物静かな屁女は後ろに控えて居るのだろうが、特に気にする必要もない。

 この集団のことを思った。普通に歩いていて、前からこの集団が行進をしてきたとしたら、どうだろう。怖くはない。絶対に、怖くは無い。いや、怖いかもしれない。


「ちょっと待って」


 自販機で缶のコーンポタージュを買った。お腹が減っていた。妖怪はいいなあ。お化けは死なないし、病気も何にもないんだから。

 どこかで昼食が取りたいと言った。もしもレストランに入って、何名様ですかと聞かれたら、どう答えよう?


 屋上遊園地。子供たちが遊んでいる。見ているだけで楽しい。子供の突発的な咆哮。感情と表現の間に垣根が無い。小さなジェットコースター。小さな観覧車。多すぎない人々。ここに、ペッチペチの娘さんが来ていたんだ。どんな子だろう? どんな気持ちで、この景色を見ていたのだろう? 悲しくなった。冷たい風が吹いた。建物内に入った。

 エレベーターのボタンを押すと、ボタンが光った。テレポートが出来る妖怪がいれば良いのに。上に並んだ数字は。『2』の文字が光っていて、『3』『4』と順々にエレベーターが上がってくるのが分かった。恐怖を感じるのは、サスペンスドラマの見すぎだろうか。


『R』


 チーン!


 扉が開いた。


 空っぽの箱に皆で乗り込む。傍から見たらガラガラだけど、妖怪を勘定に入れると混んでいる。途中で人が乗ってきたらどうなるのだろう?

 エレベーターが下降する。出発という感じだ。妖怪平和維持団。へっへっへ。妖怪も人間と同じように、階数表示をじっと見ていた。私は後ろの方で澄まして立ち、妖怪と同じく階数表示を見ていた。

 珍しく、途中で止まることなく、エレベーターは順調に一階へ向かっていた。

 妖怪と人間が箱詰めされて一階に下る。

 ああそうだ。幽霊も二体いるらしい。


 ……。


 ぷーぅ。


「……ハッ!」

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