#29
妖怪掲示板とやらを見ても、私には全く意味が分からなかった。
てっきり、教科書で見た江戸の立て看板のような代物だと思っていたら、公園の外れにある、何年も前に捨てられて風化した本棚だった。ツチニョロンは本棚をまじまじと見つめると、突然持ち上げてひっくり返した。
裏で眠っていたダンゴ虫が驚いて、我先に枯葉の裏へと向かって走って行った。ゾッとした。
「うわあ。それで分かるの?」
「え、何が?」
彼はそう言うと、本棚を元に戻して、その奥まった部分を覗き込んだ。
たっぷり五分もそのまま覗き込んでいて、顔を上げると、そのバカみたいな眼差しが私に向けられた。
「なにか分かった?」
「あ、あああ」
その間に、ヒッキーや屁女が本棚を覗き込んでいた。
「何、何やってるの?」でくの坊という名の人間。南の声は震えていた。
「あのね。妖怪の掲示板があるからそれを見てるよ」
「ああ、そうか。いや、その……。本棚をひっくり返したのって、妖怪なんだろう?」
「そうそう。あ、そういえば、見えないんだもんね。ビビった?」
「ビビったというか……。何も情報が無いから、不安なんだよ」
「ビビった?」
「ビビったと言うか……」
「もう黙っとけ」
ヒッキーと屁女も掲示板を見終えた。ヒッキーは猫背をより丸め、屁女はすっかり元気のないペッチペチの母に寄り添うようにして立っていた。
「これって、妖怪の中では有名な物なの?」私は聞いた。
「いや」ヒッキーが答えた。「四、五人での伝言板みたいなものだとおもう」
「四、五人?」
「す、そうだよ」ツチニョロンが返事をくれた。
「少なくない?」
「……ハッ!」
自分の情報網の狭さに気付かされ、ツチニョロンはショックを受けたようだった。その姿を見て、井の中の蛙という言葉が浮かんだ。
しかし、本当にショックを受けているのか怪しいものだ。頭が良いのか悪いのか、全く計れない部分がある。
私も、その本棚をのぞいてみた。何も書かれていない。妖怪特有の文字でもあるのかしらね。
「ねえ、何て書いてあったの?」
ヒッキーと屁女を交互に見て、私は聞いた。
「さあ」ヒッキーが言った。
「わからない」と屁女。
「分からないの? ねえ」私はツチニョロンに向に直った。「何て書かれてたの?」
彼は言った。
「え、分からない」
驚きの結末だ。私は思わずカッとなって、決して故意にでは無いのだけど、ツチニョロンのケツを蹴りあげてしまった。
「ハッ! ハワワワワ!」
彼は大層驚き、その驚きっぷりで私は冷静になった。話を聞くと、どうやら掲示板には、落書きのようなものがされていただけだったらしい。
「ごめんね」
そして、みんなで次の一手を考えた。
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