概要
──差し出すその手が空を切るかどうかは、差し出してみないとわからないのだから──
とある田舎町に様々な"縁"が常人より僅かに深い少女がいた。特別な力は持たないが、"彼等"に寄り添う少女がいた。
山眠るのを眺めたり、想う花に憑かれたり、またある時は旅立つ春を見送ったり。
彼女の歩く、ささやかな日常に潜む怪異や不思議。それは何の変哲もない、日常の隙間から覗く物語。
藺草の香りに包まれて、彼女は四季を廻る。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!この物語が日常足り得る奇跡に寄せて
手を伸ばすことで、世界が延長する。
その言葉が何と見事に著されていることでしょうか。ここにはふたつのアスペクトが込められています。自ら働きかける意思があること、あくまで彼らのいる場所が延長線上であること。
この物語のヒロインは、妖や、神や、怪異などの『隣人』と縁を持ちます。彼らと遭遇するのは、どこかの霊峰や樹海ではなく彼女の生きる世界の傍らであって、日常との接点です。
そのやわらかな語られ方は、あくまで非日常である彼らを日常に溶け込ませ、寄り添います。彼女を物語の主人公足らしめているのは、何かを変える力ではなく、変えられた何かを受け入れる心です。それは、こと怪異譚であるこの物語を日…続きを読む - ★★★ Excellent!!!妖、人、日常、怪奇。人間と妖が生きる日々の、ひとつひとつの物語。
日常の隣、人の世界に共にあるもうひとつの世界。ほんの少し手を伸ばした先に見える、不可思議な彼ら。
特別な力があるというよりは、ただその彼らの傍にほんの少しだけ近い少女。彼女が見てきた世界をゆっくりと丁寧に語った物語は、非常に美しいです。
ひとつずつの経験が並ぶようなお話たちは、ひとつ手に取るに丁度いい絵巻物にも似ています。少女が歩む通学路、散歩道。本当にささやかな日常すら美しく語るような文章と、そこにするりと怪異が紛れ込む世界の近く見える心地は奇妙です。ただひたすら、雨の匂い、土の香り、木の葉の音、空の高さといったものを四肢に巡らせるような感覚。
ふと隣を見上げればなにかあるのではと思うよう…続きを読む - ★★★ Excellent!!!妖と神と幽霊と、そうして《人》と。
妖、神、幽霊……様々なものとの縁が、ちょっとだけ深い娘の、実に不思議な日常が綴られています。それらは人知の及ばないものではあるのですが、普段は見えず聞こえないだけで、確かに私たちの暮らす現実と背中あわせにあるのだと思わせてくれます。不思議だけれど、決して奇異なるものではない。稀なるものでもない。
常に側にある、不思議。
この作品は短編集になっていて、話はどれも短いですが、ひとつひとつの話が繊細に書きこまれております。登場する人ならざるものたちの心境、それを見つめる語り手の感情の機微、季節感あふれる風景の描写まで、取り落としているところがひとつもありません。
かといって語りすぎず、そこからさき…続きを読む