妖と神と幽霊と、そうして《人》と。

妖、神、幽霊……様々なものとの縁が、ちょっとだけ深い娘の、実に不思議な日常が綴られています。それらは人知の及ばないものではあるのですが、普段は見えず聞こえないだけで、確かに私たちの暮らす現実と背中あわせにあるのだと思わせてくれます。不思議だけれど、決して奇異なるものではない。稀なるものでもない。
常に側にある、不思議。
この作品は短編集になっていて、話はどれも短いですが、ひとつひとつの話が繊細に書きこまれております。登場する人ならざるものたちの心境、それを見つめる語り手の感情の機微、季節感あふれる風景の描写まで、取り落としているところがひとつもありません。
かといって語りすぎず、そこからさきを想像して余韻に浸ることもできます。
真に巧みな筆力で綴られており、話の数が多いにもかかわらず、頁をめくる手がとまらなくなりました。
この著者さまは只者ではないと思います。

不可思議でありながらどこか身近な物語の数々に、あなたさまも是非に身を委ねてみてはいかがでしょうか。まずはひとつ、「山眠る」から。
それから願うことならば、「春の旅立ち」を。

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